第十五話 お弁当はお約束のイベント

午前中の授業では、アリサが浩の教科書を見せろ、といって一緒に見ていた。

最初のうちは浩も戸惑ったが、そのうちに慣れてきた。


「ヒロくんの教科書、綺麗ね。まるで使ってないみたい。予習も復習もしないのね。やっぱりクズまっしぐら。」最後のひとことだけ余計だよ。


まあ、教科書は基本学校に全部置いてあるし。電子書籍は味気ないからなるべく紙の本を買っているんだよね。そうしたら重くて邪魔になるから学校において来るようになった。まあ、正直ベース、電子書籍買ったって家で開くことなんかないから同じだね。

電子書籍の場合、動いたり読みあげ機能がついてたりするから、本当はそっちのほうがいいんだけど。学校というか文部科学省の方針として、電子書籍も紙の書籍も同じように扱えということになっているみたいなんで、紙を持ってきた人を優遇することもも(もちろん冷遇すりこともなし、ということになっている。


何を言いたいのかというと、どうせ勉強しないから紙でも電子でも一緒かもしれない。でも授業中に落書きができる紙の教科書の魅力のほうが多い、ということになる。

とはいえ、落書きもしていないのだが。

タブレットだと遊びの機能がついているから授業中はそのほうが暇つぶしにはなる、という考えもある。もちろん学校の公式見解としてはタブレットの中の遊びの機能はぜんぶつぶしてあるはずだが、そこは、やはり蛇の道は蛇。遊びたい、エロを見たいという欲望は、プロテクトを外したりセキュリティを突破する原動力となるのだ。かくして浩のクラスメートの男子のうち、タブレットにエッチな本が入っているのは9割だという。健全な男子高校生の模範と家っるだろう(ほんとか?)


とりあえず仲良く教科書を共有して読んだら、そのあとは弁当の時間だ。

今朝、アリサがたくさん持ってきてくれたから、その中で食べなかったものを弁当に詰めてある。


「じゃあ、オナ研のみんなで食べましょう。」アリサが大声絵で言う。

「オサ研だってば!!」浩は必死に訂正する。

「もう、どっちでもいいじゃないの。それより、ここで机動かせばいいのよね。ヒロくん、4人分やってね。高円寺くんも雪度さんもいいでしょ?」まあ、反対はしないだろう。もともとここで抵抗するようなら部活にも入らないと思う。


幼馴染研究会のメンバーとしてテーブルを囲んでしまったので、まわりはちょっと遠巻きにしている。参加したいようなしたくないような、そんな感じだ。もちろん部活に入っている連中のほうが多いので、入部候補者は限られるだろう。まあどうしても、となればかけもちとか幽霊部員とか勧誘する手もある。


四人は弁当を出す。アリサと浩の弁当は同じ弁当包みだ。

「あれ、佐藤。アリサさんと同じ弁当?」高円寺が目ざとく見つける。

「そうよ。幼馴染だからね。」アリサが何となく勝ち誇ったように答える。べつにアリサには聞いてないんだが。

 それに、幼馴染だから同じ弁当、って意味がわからない。


高円寺は頭にはてなマークをつけているが、なんとなくアリサの勢いに押されたのか、「お、おう。」とだけ答える。


アリサと浩の弁当にはいろいろなものが詰まっていた。弁当の定番、唐揚げとソーセージ、ミニハンバーグにプチトマト、なぜか酢豚と漬物も入っている。

卵焼きがないのは、母の浩子が作らなかったからだ。まあすでにおかずのバラエティがあるのでわざわざおかずを足す必要もなかった。


ちなみに、白米の上に、桜でんぶでハートマークが二人の弁当に描いてあった。

やりすぎtだ。


「なんだかラブラブカップルの弁当を見せられてるんだけど。」高円寺が言う。

「あのね、幼馴染であって、ラブラブカップルとは違うのよ。その辺の幼馴染論については、放課後やりましょうね。」アリサが答える。


なんか幼馴染論、ってなんだろう。離村武装してるのか?夏休みの自由研究で幼馴染についてレポートでも書いたのか?まあ学校転校しているし、夏安みの宿題なんてないのだが。


「いただきます。」アリサは音頭を取り、他の3人も唱和する。

なんか、小学校のときの給食の最初を思いだすなあ。浩はそんなことをつらつら考える。


「やっぱり、あたたかいほうがお弁当もおいしいわよね。明日から料理人連れてこようかな。」それは絶対やめてください。


「プラチナだとレストランがあったから、お弁当の問題点にあまり気づいてなかったのよ。電子レンジはあるの?」

アリサは尋ねる。

「食堂に行けば置いてるよ。使う人は結構いる。まあ、教室からわざわざ弁当温めrに行くやつは少ないけどね。

「じゃあ、明日からは料理に…」「だめだよ。」浩がすぐに否定する。

「専属の料理人だと、アリサとアリサの関係者以外食べられないじゃないか。実はお相伴にあずかりたいやつは、男女ともにそれなりにいると思う。あと、食堂の厨房の邪魔にもなるし、やめといたほうがいいよ。しいていえば電子レンジを教室の近くに設置するとかね。」

浩がなんとか説得する。

「じゃあ、これも副校長先生に言えばいいね。」

そういうとアリサは携帯を出して、電話を始めた。

「アリサです。二年B組に、電子レンジを用意しておいてちょうだい。明日からお弁当を温めるのに使うから。よろしくね。あ、あと、部を作ったから、部活の顧問をやってほしいんだけど、いい?書類は放課後渡すから。あ、副校長が顧問?もちろんいいわよ。ありがとう。ついでに部室もお願いね。」

本当に副校長先生はすごいな。


電話が終わり、食事を再開した。

アリサがウィンナーを箸でつまむ。

「ヒロくん、あーん。」アリサがウィンナーを浩の前に差し出す。

浩ももう慣れてきたので、ぱくりと食べる。「うん、おいしいよ。」浩はナチュラルに言う。


「私たちは何を見せられているのかしら?」雪度マリは嘆息した。彼女の弁当は、小さくてかわいらしい小判型のものだった。身体が小さいから少食なのか、それとも少食だから体が小さいのだろうか。いずれにしても、彼女はまだまだ発展途上の体格だ。高2なのだが、まだ中学生にようにすら見える。

「まあ、少なくとも恋人関係でないことは確かだけどね。」高円寺が両手を開いて、やれやれ、といったポーズをとる。

そりゃそうだ。まだ会ったばかりだし。

そこで、アリサが口をはさむ。

「幼馴染はね、家族同然なのよ。この辺の幼馴染論は、ちゃんとそのうち本にまとめるけど、その前にいろいろ講義するね。異論反論も認めるから、いろいろ話しましょう。それがそのまま本のコンテンツになるの。」

幼馴染論で本を出すつもりか? まあいいけど。別に自費出版だったらミクリヤグループで出せると思うけどね。


「ヒロくん、私に唐揚げくれるかしら?」アリサは浩に言う。

「へいへい」そういうと浩は弁当箱のふたの上に唐揚げを載せてアリサのほうに突き出す。

アリサは怒った顔をする。

「そうじゃないでしょ。同じことしなさい。幼馴染でしょ?」

幼馴染だってあーん、はしません。それどころか、本当は幼馴染じゃありません、なんてことは言えない。

仕方なく、浩は小さい唐揚げをつまんでアリサに向ける。

「あーん」投げやりに差し出す。

アリサは満足そうに大きく口をあけて唐揚げを食べる。


ちょっと大きすぎたか?まあ、これより小さいのは無かったから。

「アリサはちょっと苦しそうだ。浩はペットボトルのお茶を差し出す。

「ほら、お茶。」アリサはお茶のボトルをひったくって口に入れる。どうやら、唐揚げの半分くらいをお茶で流し込んだようだ。


「大丈夫か?」浩はアリサに声をかける。

「もちろん問題ないわ。でもありがとう。これからは、あーん、のために小さく切るものが必要かもしれないわね。」

そんなもの要りません。やんなきゃいいんです。

…とは言えず、浩は答えた。「さあな。」


高円寺が浩に言う。「おい、なんか分けてくれよ。俺の弁当はろくなものが入ってないからな。」実際、白米以外はちくわとかだ。

「おお、いいぞ。今日だけは豪華だからな。」浩は酢豚をわけてやる。

それを見たアリサが、雪度マリに言う。

「雪度さん、あなたも何か食べる?」:

マリはあわてて否定する。「めっそうもない。そんな、いただけませんよ。」

アリサはちょっと機嫌を損ねたようだ。

「私のお弁当なんか食べられないっていうの?」ほとんど因縁である。

「…じゃあ、プチトマトをいただきます。」奥ゆかしいというかなんというか。

「そんなのでいいの?アリサは尋ねる。」「お昼は、あまり沢山は食べられないんです。そういう体質で。」 でも、どうぜ阿多y6宇うそんな食べないんだろうけど。


「そうなの。なら仕方ないわね。でも、たくさん食べないと背も伸びないし、胸も膨らまないわよ。」

あ、禁句が出た。

女同士でもそれを言っちゃあいけないと思う。とくに大きい人が小さい人に言ってはいけない。これは、勉強できるやつが「勉強だけがすべてじゃないよ。」なんてできないやつに声かけるのと同じくらい罪なやつだ。


マリはぶるぶる震え、そそくさと弁当を片付けると席を立とうとした。

そこに声がかかった。

「あら雪度さん、部屋を出るのはちょっと待ってくれない?」生徒会長も兼務する学級委員の大久保詩葉の声がした。







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