第十四話 オ〇研じゃなくてオ〇研だってば!
浩とアリサは、手をつないだまま、来賓用の昇降口へ行く。そこに二人の靴箱があるからだ。
昨日校長に頼んだわけだが、準備はできているのだろうか?
昇降口についてみたら、副校長が立っていた。
普段のジャージ姿ではなくて、珍しくスーツ姿だ。この人、スーツなんて持っていたのか。と、浩は失礼な感想を言いそうになるが、自重した。
「おはようございます、アリサさん。」副校長が快活に挨拶する。
「おはようございます。靴箱はご用意いただいたのでしょうか?」
副校長は笑顔で答える。
「勿論でございます。こちらがアリサ様のところで、ここが佐藤君のところです。」
副校長、俺の名前も覚えてくれたのか。まあ今後はいやでも接する機会が増えそうだしな。
「アリサ様はこの3つをお使いください。冬場のブーツや履き替え用などの分とお考えください。すべて指紋認証で鍵がかかります。最初に登録だけお願いします。」
たかだか靴箱でそれか。
「佐藤君のはこれです。一応鍵もついてますので、必要なら言ってください。」
鍵なんか要らないと思う。
「ヒロくんの場合は、鍵なくてもあっても同じよ。」アリサが言う。
「鍵かけなくても、誰もラブレターなんか入れてこないよ。」大きなお世話だ。
そりゃ、いままでそんな経験はないけど。
もしかしたら、今後あるかもしれないじゃないか。
でも、もし手紙が入っていたら、それは偽物か罰ゲームだろうな。
真剣なら、そんな手紙を靴箱になんて入れない。手渡しするとか、メールとかね。
ま、いまの時代はそんな手紙はないんだよ、ということにしておこう。
そう考えないと悲しくなる。
それはさておき、上履きに履き替えて、二人で教室へ向かう。
「副校長先生、ありがとうございました。」浩は声をかける。副校長って本当に大変だ。この学校で、雑用をなんでもこなすのが仕事なんだよな。そういえば、昔、用務員とか小遣いのおじさん、というのがいたらしい。用務員ってのはまだなんとなく字を見て意味がわかるけど、小遣いってなんだよ?お小遣いもらって何かするの? この辺は、浩の父親世代でもわからないかもしれない。
まあ、副校長の髪の毛がこれ以上減らないように、気遣ってあげないとね。
というわけで、手をつなぎなおして二人で教室に着いた。
教室のドアは前も後ろも開いている。職員用の靴箱から来たので、教室の後ろ側から入る。
「アリサさん、おはようございます。」目ざとくアリサに気づいた雪度マリが挨拶する。背は低いけど反応は早いな~さすが小動物。などと浩は思う。
「佐藤君、なんで手をつないでるの?」雪度マリが聞く。まあ当然の疑問だろうな。
「なぜかな。一応、幼馴染は手をつなぐものらしいよ?」
と、浩は自信なさげに返答する。
「なぜに疑問文なのよ? だいたいアリサさんは幼馴染じゃないんでしょう?」
マリがあきれたように言う。まあ、そのトロイなんだが。
「だからね、昨日から幼馴染になったのよ。そして、過去あるべき姿を追体験しているのよ。」アリサに聞こえていたらしい。
「でも、手なんかつないでいいの?この男、きっと勘違いすうと思うよ。」雪度マリは結構辛辣だ。
「単なる幼馴染もどき、ということでしぶしぶ手をつないでるだけなのに、このままだとアリサさんに惚れて、そのうちストーカーになるかもしれないから気をつけてね。」えらい言われ方だ。
「そんなのは大丈夫よ。もし、ストーカーにでもなったら、きっといつの間にか世の中から消滅するから。」 なんだか怖い。さすがミクリヤ一族だ。もしかしたら暗部がいるのかもしれない。そういえば、あの瀬場さんって身のこなし凄いよな。もしかして忍者の末裔なのかもしれない。
「アリサさん、部活は何か入るのですか?」立ち話をしていた学級委員の大久保詩葉が聞いてくる。背が高いので、長い黒髪がよく映える。正統派の和風美女、といってもいい。ただし男性には興味がないらしく、クールビューティだけでなく、アイスビューティというの異名を誇っている。
詩葉さんには、和服が似合いそうだ。とくに巫女の服でも着せたらすごく似合いそうだ。ついでに脱がすともっと… などと妄想を始めた浩。 が、いきなり詩葉からすごく冷たい目で見られ、背筋が凍る。
「佐藤さん、何かよからぬことを考えていませんか?」詩葉が決めつけてくる。
「ま、まさか…。」と、浩はなんとか否定する。頭の中から巫女さんはいなくなってしまった。
「ヒロくん、妄想はおうちのベッドの下でしましょうね」アリサが追い打ちをかける。
「何、それ?」雪度マリがアリサに聞く。
「まあ、男の子のすることね。」アリサが楽しそうに答える。
だが、雪度マリはいやそうな顔をする。「どうせ、ろくなことじゃないでしょう。聞かなきゃよかったわ。ごめんなさいアリサさん。」
「話がそれたわね。部活の話よね。この学校は全員どこか入らないといけないの?」アリサが聞く。何やら頭の中に考えがありそうだ。
詩葉は丁寧に答える。「この学校は、べつにどこの部活に入らなくてもいいですよ。文化部と運動部の掛け持ちをしている人もそれなりにいます。私は生徒会をやっているので、部活には入っていません。だいたいどこの部活も、入部、退部は自由ですね。あと、5人以上部員を集めて、顧問の先生を見つければ、自分で部を作ることもできます。公認の部活動になると、学校から補助金が出たり、部室をもらえたりします。」
さすが詩葉。実は、一学期の終わりで3年生の生徒会長は引退。選挙で新しい会長を決める。詩葉は、9月から生徒会長になったばかりだ。ちなみに、生徒会長の最初の大きな仕事は、秋の学園祭だ。これの準備があるから、新しい生徒会長として、詩葉は夏休みにずいぶん準備をしたはずだ。
「聞いていたとおりね。」アリサは言う。誰に何を聞いていたのかな?
アリサは、教室の前に出て、教壇の上に乗る。
「皆さん、聞いて。」金髪の美女が前に出ると、みな私語をやめてしんとなる。
アリサは言う。
「私、新しく部を作ることにしたから。希望者は歓迎します。トピックに興味がある人優先で、部員を募集するわ。」
「どんな部なんだあ?」高円寺がちょっと興味をもった感じで言う。そういえば、こいつは部活には所属してなかったはずだ。
「私が作る部はね…」アリサは勿体をつける。
「何を隠そう、幼馴染研究会よ!」
得意そうなアリサ。
だが、何がなんだか全くわからない。
「部員がやるべきことは、幼馴染とは何か、というのを研究することと、今からでも幼馴染を作ること。幼馴染を作って、あなたも高校生活をしっかり楽しもう!って感じかな。
幼馴染研究会、略してオナ研。よろしくね。」
「略称はオサ研にしろよ。」浩は突っ込む。
「どうして?部員1号のヒロくん。:俺は部員一号なのか。もう決まってるんだな。まあ、予想はついたけど。
「語呂がよくない。大声で呼べないからな。」浩は正直に言う。
ただ、アリサは気づかないようだ。
「え~。オナ研でいいじゃないの。」
「駄目だ。そうじゃないと部員にならないからな。」実は内心必死の浩。
まさか、オナ研に入って活動している、とか言ったら周りからどう言われるかわからないからなあ。
「部員5人と、顧問の先生が必要よ。揃ったら、入部届と部活動開始届を書いて、顧問のハンコもらって生徒会室に出してね。書類は生徒会室にあるから。」黒髪ロングヘアの国立真弓が解説してくれた。
さすがは生徒会長。しっかりアドバイスしてくれる。
「入部希望者は、ほかにいるかしら?」
「はーい。面白そうだし、佐藤がいじられるのを見るのも楽しそうだ。」高円寺が言う。こいつもお調子者だから、入ってから考えるってことだろうな。
こいつのこともこれからはもう少し観察しよう。意外に背が高いんだな、こいつは。何かやってたのかな?
「あの、私も入れてください。」誰かと思えば雪度マリだ。
「部活動やってなかったんで、何かやってみたいと思ってたから。」小動物のように落ち着きがないのは相変わらずだ。まあ、いろんな連中の情報やうわさを集めるのは得意みたいだから、この部にもいいかもしれないな。
「これで4人ね。国立さんって言ったわよね」と、真弓に話しかけるアリサ。
「そうですけど。」
「紙を出さないといけないから、放課後、生徒会室に行けばいいのね。」アリサが言う。
「あ、どうせ昼休みに生徒会室に行くから、紙は取ってくるので気にしないでください」完璧超人は気配りも上手だ。
「ありがとう。。お言葉に甘えるわ。」
もっと参加者がいるかと思ったけど、皆とりあえずは様子見、という感じだな。
いきなりのことだし、アリサとお近づきになれるメリットがあるはずだから、もう少ししたら入部希望者は増えるんじゃないかな。 まあ、逆にアリサに睨まれるリスクってのもあるわけだが。ご機嫌を損ねたら退学まであるわけで…あれ?簡単に入部なんてするもんじゃないのかな?
そんな風に思っているうちに、担任の中野先生が入ってきて、ホームルームが始まった。
特に連絡事項もなく、すぐに終わる。すると、いきなりアリサが立ち上がり、質問する。
「先生、部活の顧問やってほしいんですけど、いいですか?」
中野は驚いていた。ただ、すぐに気分を立て直したのか、返事する。
「私は今、バスケットボール部の顧問をしているから、申し訳ないけどほかの先生にお願いしてもらえるかな?」そういいながらハンカチで頭の汗をぬぐった。
「じゃあ、誰か推薦してください。」アリサが言う。
まあ、先生を知らないからそうなるわな。
「私も全部は把握していないので、副校長先生に聞いてもらえますか?お願いいたします。」なぜに敬語?ま、雇用主の関係者か。
「わかりました。あとで聞きに行きます。」この学校、なんでも副校長に言えばいいみたいだな。わかってはいたけど、改めて実感する。
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