第三話 転校生は幼馴染!
間違いない。このプラチナ学園の制服に身を包んだ、金髪ツインテールの美少女転校生は、今朝、パンをくわえて浩にぶつかってきて、しましまパンツを鑑賞させていただいたあの子だ。
その少女は、入ってくるなり教室の中を見回すと、浩に気づき、そして彼の目ををまっすぐに見た。
浩は、ちょっとたじろいだ。
そして、少女は浩を指さしながら、勝ち誇ったように言った。
「やっぱりここにいたわね、ヒロくん!」
え?ヒロくん?それってもしかして…?
「ヒロくん、久しぶりね。幼馴染のアリサよ。今日からずっと一緒だから、よろしくね!」そう言って、アリサという少女はウィンクする。
浩は混乱した。幼馴染?僕の幼馴染は、小学校一年まで近所に住んでいた同い年の女の子、たまりちゃんこと、水田マリちゃんだけだ。引っ越してからたまりちゃんとは一度も会ってないから、今、どうしているかなんか知らないけど。
でも、たまりちゃんは黒髪だし、元気はあったけど、顔は和風ののっぺりした感じだった。あの「たまりちゃん」が大きくなってもこんな洋風の少女になるとも考えにくい。名前も違うし…。
浩は答える。「俺の幼馴染は。キュートで日本的な女の子らしい『たまりちゃん』だけだ。お前みたいな派手な洋風の美少女は知らない。今朝のアクシデントはさておきな。」
中野先生が慌てて言う。
「こら佐藤、口を慎め。こちらにおわすお方をどなたと心得る!」
「水戸黄門かよ…再放送でしか見たことないぞ。」浩は突っ込む。
「馬鹿者。こちらは、うちの学園のミクリヤ理事長のお孫さんで、御厨アリサ様だ。アリサ様がそう言っているんだから、そうに違いない!」
何だよそれ。お殿様がカラスは白いといえば白になる、というやつかよ。
少女は教室全体を見回して言った。
いや、睥睨した、という言葉がまさにふさわしい。
「私は御厨アリサよ。名字はいろいろめんどくさいから、アリサと呼んでね。今まではプラチナ学園にいたけど、あるプロジェクトを進めるため、おじい様に頼んでここに転校してきたの。これからよろしくね!」
そういうと右手を前に出して人差し指と中指を立て、じゃんけんのチョキを作った。ピースサイン、あるいはVサインというらしい。(どちらも死語っぽい。ちなみに、両手を出すダブルピースには顔をセットにする必要があるらしいが、良い子にはわからないくて特に問題ない。))
「ちなみに、どんなプロジェクトなのか、ご教示いただいてもよろしいでしょうか?」汗を拭きながら、中野が尋ねる。
「もちろんよ!」
アリサはふんすと胸を張り、宣言した。 …ちなみに、胸を張ったところで、なだらかに近い、ささやかな丘が広がっているばかりだったが、これは発展途上ということだろうか…それはさておき、こんな言葉が出た。
「プロジェクト幼馴染、略してプロジェクトオーエヌよ!」
クラスはどよめいた。まったく意味が分からない。
浩は高円寺にこっそり聞いてみた。「お前、意味わかるか?」「わけねーだろ。だいたい大金持ちのお嬢様と幼馴染なんて奴はこのクラスにいないだろ。」高円寺は冷静に答えた。その通りだ。セレブの連中は、幼稚園、小学校とミクリヤのダイヤモンド学園に通う。そしてそのままプラチナ中学へと進学していくのだ。だから、浩たちが通っているこのパイライト学園に、お嬢様の幼馴染なんかいるはずがない。
ちなみに、オーエヌと言ったらブイナインだ、と浩の祖父なら言うだろう。いまの良い子たちには通じないだろうが。
「プロジェクト…幼馴染? それって何ですか?」不思議そうに雪度マリが尋ねた。
「プロジェクトオーエヌのこと、教えるわね。世の中には、何をやってもできないダメな奴がいるんだけど、そういう社会のクズ予備軍を救済して、世界平和に貢献する高尚なプロジェクトよ!」
目を輝かせながら得意そうにアリサが言い放つ。
「それと…幼馴染と…いったい何の関係が?」高円寺も目にはてなマークをつけながら突っ込む。
「それはね。そういうダメな人を救済するのは、幼馴染の役割なのよ! 本当は、幼馴染さえいればフォローできるんだけど、小さいころに幼馴染ができなくて、そのまま高校生になってコミュ障のダメ男になってしまったやつを、新たに幼馴染になってあげることによって救済する、ってこと! わかるわよね!」
「いや、まったくわからないんだが。」浩が答える。
「あなたはわからなきゃダメなのよ。まあ、わからないからダメなんだけどね。」どっちなんだ。
アリサは、まっすぐ浩の目を見た。透き通ったとび色の瞳が、浩の視線と交差する。
「ヒロくん、これはあなたのためのプロジェクトよ。」
「…ヒロくん、って佐藤浩くんのことなんですか?」横から、黒髪ロングのクールビューティ、 学級委員の大久保詩葉(うたは)が指摘してきた。彼女は浩の隣の席に座っている。
「その通り。このプロジェクトオーエヌは、手始めに、この冴えない佐藤浩くんをクズ予備軍から、まっとうな真人間に造り変えるところから始まるのよ。そのために、私はわざわざ転校してきたの。転校生のお約束として、ちゃーんとパンをくわえて角でぶつかって、ついでにちょっとしたサービス、というお約束イベントまで準備してね。ヒロくん、わかってくれた?」アリサは得意そうだ。
…ちょっと待て。俺のためのプロジェクト、といっても俺はそこまで人間のくず予備軍だったのか?浩は焦った。
「なんで、俺なんだよ。」
アリサはツインテールをなびかせながら答えた。「私と同い年の男の子で、ぼっちでさえない男子をパイライト学園の生徒データベースから8人選抜したの。そして、その8人のプロフィールで対戦バトルして、負け残ったのがヒロくんだったのよ。実力のみならず運までないのよね、この人。」 もう、泣いてもいいですか?
「まあ、私のことを美少女、と呼んだりして、まだ見所というか更生の余地がありそう、ってこともわかったし。」さいですか。まあ、美少女といっても頭のネジがゆるんでるのかもしれないけど。
「というわけで、私とあなたは、今日から幼馴染よ。よろしくね!ヒロくん。私のことは、アリサちゃんでいいからね。あと、反論は認めません。」 無駄に迫力があった。
「ヒロくん、幼馴染のアリサちゃんが、お約束の転校生として目の前に現れたのよ。まずは気づいて大声を出して飛び出してきなさい!」何やら指導が入ってきた。
「意味わかんね。」
浩はつぶやいた。
アリサはむっとして言う。「中野、教育方針間違ってない?」
担任の中野先生が飛んできた。
「とんでもございません。失礼や粗相があったらお申し出ください。
もみ手でもしそうな雰囲気だ。
中野は浩に向き直った。
「佐藤、チャンスをもう一度だけやろう。ちゃんとアリサ様のおっしゃる通りにすれば、退学は許してやる。さもなければ、ただ今をもって、お前の席はなくなる。」
真顔で言ってるよ、おい。
浩はとりあえず反応する。「なんでそんなので退学させられるんだよ。ありえないだろ。」
「何を言っているんだ。高校は義務教育じゃないし、ここは私立の学校だ。一番偉いのは理事長。理事長にものを言える理事長のご家族は、この学校のヒエラルキーの頂点なんだよ。校長なんかより、、ずっと偉い。だからこそ、今朝は校長だって始業式よりもアリサ様のお相手に時間を使っていたのだよ。もし一介の生徒が理事長に睨まれたら、退学どころじゃ済まないくらいの恐ろしい目に…」
浩は背筋が寒くなった。もしかして本当なのかもしれない。とりあえず従っておくのが得策だろう。
「わ、わかりました。もう一度だけ、お願いします。」
浩はびびりながら答える。
「ではアリサ様、お願いいたします。」中野が言う。
すると、面倒くさそうに、だがちょっとだけうれしそうにアリサが言い放った。
「しょうがないなあ。 じゃ、行くよ。」アリサはまっすぐ浩の目を見る。
「ヒロくん!」
浩は仕方なく答える。「あ~、君は今朝のあの子、転校生だったんだね。え?よく見ると君はもしかして、アリサちゃん?」
アリサは満面の笑みを浮かべた。「うん、合格。ヒロくん、よくできました。」
褒められてこれほどうれしくなかったのは生まれて初めてかもしれない。
「じゃあ、私の席はヒロくんの隣ね。あ、誰か座ってるの?あなた、あそこの空席に移動しなさい。」浩の隣の席には、黒髪ロングのクールビューティ、大久保詩葉が座っている。姿勢良く座っていて、豊かな胸が目立つ。きっちりと胸元のボタンをとめた、制服のブラウスがきつく見える。。
「大久保、頼むから移ってくれ。」中野先生が彼女に頭を下げて頼んだ。先生としてのプライドなんかないようだ。
「仕方ありませんね。」詩葉は嫌々、というのがあからさまになる感じで答えた。
「私の場合、佐藤くんに何の思い入れもありませんから。それこそ一ミリだって。」」
…そのコメント必要?俺、本気で泣いちゃうぞ。浩は内心で突っ込んだ。
「佐藤君。必要だと思ったから言ったのよ。あなたって使えない割にわかりやすいわね。
破れたポイみたいなものかしら。」
ポイって何かと思って浩はスマホで調べた。金魚すくいの、金魚を掬うやつのことらしい。それの破れたものなんて、何の使い道もないじゃないか。一目でなんだかわかる、という意味では分かりやすいのも確かだが。
詩葉が荷物をまとめ、席を移動する。そこへ、鼻歌を歌いながらアリサがやってくる。アリサはウェットティッシュを取り出すと、浩に渡した。「ヒロくん、とりあえず机と椅子を拭いて綺麗にしてね。終わったら、もう一回アルコールで拭いて消毒よ。」
いきなり使われてている。「なんで俺がそんなことを…」言いかけた浩を、アリサが手で制する。
「ヒロくん、やってね。だって、もうそれ以上の対価を払っているもの。」アリサが言う。「え、何だい対価って?え、もしかして、まさか…」浩は頭を抱えた。
アリサは凶悪そうな笑みを浮かべ、小声で浩に囁いた。
「そうよ。ちゃんと、前払いにパンツ見せてあげたじゃないの。いやならいいよ。ヒロくんがわざと私にぶつかって無理やり転倒させてパンツを凝視して、気味の悪い笑いかたをしながら走り去っていったって。」
それじゃ本当に事案発生じゃないか。
浩はあわててまず椅子を拭く。ティッシュのあとは、今度は渡されたアルコールを使って再度綺麗にする。「椅子は拭き終わったので、ここにお座りください。」かしこまって伝える。「ヒロくんは普通でいいのよ。気軽に話かけて頂戴。幼馴染特権で、私のものを買いに行ったり、私の荷物も持たせてあげるよ。」 完全にパシリじゃないか。幼馴染ってそんなものじゃないと思うんだが。。
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