412話 悩み多き強襲作戦

 現在、『あおば』は帝都タンドゥの西60kmの海上を遊弋していた。攻撃を受ける心配もない距離から、主砲で港を狙っているのだ。


 作戦内容は『あおば』1隻を用いた海上封鎖。未だタンドゥに残っている海軍戦力が出撃の兆候を見せれば、直ちに24式艦対艦ミサイルを撃ち込む算段だ。


 今のところ、タンドゥの海軍戦力が出撃する様子は見られない。戦力の温存を狙っているのか、それとも準備が追い付いていないのかは定かではないが、今のところ余計な武力行使はしなくていいだろう。


 そこに、城へと派遣していた銀から連絡が入る。通信室に詰めていた佳代子が通信士のやり取りを聞く形で応対する。


『こちらジェリー、客人を発見したわ。今は客室に移動してもらってるから、迎えに行くなら早めの方がいいわよ』

「了解。ジェリーは現地に残れ。6時間以内に作戦を開始する。送れ」

『向こうさんは夜目が利くんだから、なるべく早い方がいいわ。あと5時間で日没よ』

「協議する。送れ」

『はいはい、わかったわよ。そっちにデータを送るわ。オーバー』


 銀が通信を切ると、護衛艦のデータリンク経由で城の内部を映した動画データが送られてくる。このデータがあれば、より高度な作戦を練ることができるだろう。


 早速、佳代子は受信した動画データを個人の仕事用PCに保存すると、作戦立案のために指令部室に持ち込む。


 艦長らが逃げ出した以上、時間は残されていない。できるのなら、1秒でも早く終わらせなければならないのだから。


  *


『ふうん、これは少し問題かもね……』

「どういうことですかぁ?」


 波照間がぼやくと、佳代子はどういうことかと好奇心半分に聞いた。


 現在、城に残された人質を救出するための作戦会議が行われているが、艦に戻れない波照間と銀はタンドゥの裏路地に潜んでいる。そんな中、波照間が何かに気づいたようだ。


『城の警備の一部が戦力として外に出ていっているっていう情報があったんですけど、内部の警備状況はその情報通りスカスカです。ただ、あちこち開けた場所も多くて、囲まれた際は劣勢に追い込まれることも十分考えられます。航空戦力をフルに運用して、大きな打撃を与えておくことも考えましょう』

「それでは、F-35も投入する、ということですか」


 波照間の言葉に、機関長の長嶺が神妙な顔をして言う。


『そうなります。銀ちゃんが撮影していた2か所の兵舎ですが、1か所は使用されておらず、2か所目の方に人員が集中しているようです。ここにF-35の500lb弾を搭載したLJDAMで爆撃を仕掛け、待機中の敵兵を無力化。その後はAH-1ZとF-35、そしてあおばのミサイルで火力支援を行います。周辺にはヘリの着陸ポイントがなく、必然的に城の中庭へ着陸することになるでしょうから、ヘリの防衛戦力として瀬里奈ちゃんの投入も考えましょう』

「瀬里奈……っ」


 波照間の提案を聞いた徳山は、強く歯噛みしてしまっていた。


 以前から子供である瀬里奈を戦力として見ることを嫌がっていた徳山。彼のことを知っている佳代子には気持ちはわかるが、もし波照間の言う通りヘリを強引に城へ降ろすことになれば、その防護も考えねばならない。この世界はたった1人の丸腰の人間でさえ、ヘリコプターを一撃で破壊できるほどの能力を秘めているのだから。


 作戦の骨子は既に決まっている。航空戦力の活用はあくまで肉付けの1つだが、徳山の説得という要素も絡んでくることになるだろう。多数決は多数派が押し切るのではなく、少数派の意見も聞かねばならない。


 それに、佳代子は徳山の近くにいたからこそ、彼の気持ちもよくわかる。瀬里奈を危険な目に遭わせたくない、という信念にも似た気持ちは、知ってしまえば否定しようもない。


「わかりました。とりあえず、ロクマルの件に関しては要検討ですねぇ。F-35も武装を多く搭載するなら燃料は少なくなるでしょうし、艦隊と合流してもいいかもしれませんねっ」

『そうですね。それと、ラルドとも連絡を取りたいので、事前に接触してください。彼はパロムの家で情報分析に当たっているはずです』

「あ、りょーかいですっ。じゃあ、今から派遣しておいた方がいいですね」

『お願いします』


 波照間は言うべきことを言うと黙り込んだ。おどらくは動画のチェックをしているのだろう。


 以前にもアモイで似たような状況に陥ったことがある。矢沢がスパイだとバレて、ラナー共々王都ダーリャ南部の陸軍基地に囚われた事件だ。


 その時は陽動を組み合わせた奇襲作戦で少数戦力による作戦が成功したが、今回はそうではない。


 こちらがタンドゥの沖合に居座っている以上、標的はほとんど絞られている。その中でも矢沢らを捕らえている城は最重要防護目標とされているはずだ。


 今回仕掛けるのは、そこへの強襲作戦となる。圧倒的とは言えないが、航空戦力と水上戦力、そして魔法の戦力で相手取るのだ。


 失敗は許されない。この戦いは、今後の趨勢を決める大事な戦闘になるだろう。そして、身柄を拘束された隊員たちを救出するためにも。


 気を抜いてはいられない。この艦は、1つの国と戦争状態に入っている。艦を守り、人々を守るためには、戦うしか選択肢がないのだから。

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