番外編 非正規機動部隊・その2

 佳代子は瀬里奈とライザに資料を渡した。普段は作戦立案等で用いる艦艇のスペック表だが、それをイラストなどでわかりやすく解説している。


「この艦隊は、いわば戦う情報機関としての能力を持ってるんです。特に、この護衛艦あおばは1隻で戦闘と情報処理を行えますっ。まずは1ページを開いてくださいね」

「あーい」


 瀬里奈は間の抜けた声で返事をすると、薄い資料の最初のページをめくった。そのページには『あおば』が受け持つ任務の概要が記述されている。


「まずは、護衛艦あおばの任務ですっ。地球産の高性能艦で、個々の性能に関しては承知の通りですね。この艦が持つレーダーやソーナー、それに航空機で広範囲の索敵を担当するんですよ。後はヘリコプターの重整備や航空管制、作戦指揮、情報集積、艦隊防衛や戦力投射と、幅広い任務を受け持ちますね」

「つまり、多くの任務に対応できる万能艦ということですね」

「もちろん限界はありますけど、概ねそうですっ」


 ライザの揚げ足取りにも似た確認に、佳代子は何の疑問も持たずに答える。菅野は苦笑いしていたが、それにも構わず佳代子は続ける。


「次は諜報艦のベル・ドワールですね。こっちはあおばのバックアップになる艦で、戦闘力はほとんどありませんけど、パソコンをたくさん移設して、ある程度の情報集積と解析能力を持ちます。マストがなくてヘリの離着艦や艦載艇の運用もできるので、特殊作戦の指揮艦にも使えますっ」


 次のページには、諜報艦『ベル・ドワール』の解説が行われている。


『ベル・ドワール』は全長30m、幅9mの木造船で、一切マストが装備されていない『制海艦』と呼ばれる艦種となっている。艦には『あおば』から一部コピーされて移設された発電機と推進器が装備されており、速力は20ノットを発揮できる。魔力での推進では8ノットが限度となる。


 主甲板後部の直下は情報集積を行う情報センターとなっており、コンピュータの多くが移設されている。もちろん甲板には通信アンテナが装備され、護衛艦『かが』に搭載されていたヘリの電装系を丸ごと移設し、直接『あおば』とのデータリンクを確立している。


 甲板はヘリの離着艦に使われる。幅が9mしかなくかなり手狭だが、障害物の類はほとんどない。せいぜい「離着艦はできる」という程度だが、ヘリの進出における中継地くらいにはなる。


 少しばかり難解な内容だったが、瀬里奈はどうにか自分なりの解釈をしようとしているらしい。瀬里奈は教室でやるように手を挙げる。


「うーん、ようわからん。とにかく、ここでスパイみたいなことができるってことでええの?」

「あくまで、いろんな人たちが集めた情報をこちらに集積して、ここで情報を解析するっていう感じですね。要するに、スパイに指令を出したり、スパイが得た情報をこっちに全部溜めておく感じですっ」

「うーん、まぁそういうことやな」


 瀬里奈は知ったような口ぶりで何度か頷いたが、内心ではよくわかっていないだろう。そもそも、前提となる軍事知識はまだ履修しているわけではないのだ。


「次は偵察艦リウカですね。こっちはベル・ドワールとは逆に、情報を集めるための艦ですっ。自分から陸地に近づいたり、スキャンイーグルを飛ばして情報を集めます。あおばの偵察機能を代替する艦ですね」

「ヘリの離着艦は無理なので、専ら無人機の射出に専念する形ですね」

「はいっ。艦隊の前に置いてピケット艦の役割を果たしたりもしますし、救助した邦人たちを収容したりもします。帆船ということで足が長いので、アメリアちゃんがいなくても長距離の航海だってできちゃいますよ」


 佳代子は自慢げに説明するも、一方の長嶺はただ事務的に注釈を加える。


 偵察艦『リウカ』は全長25m、幅8mの中型艦で、マストを3本備えた艦艇となっている。地球で言うキャラックに酷似しているものの、大きさはそれを下回る。こちらにも通信アンテナ複数とヘリのアビオニクスを移設されており、主に『ベル・ドワール』の通信補助を行う。


 更に特徴的なのが、艦尾には折り畳み式のスキャンイーグル回収用の『スカイクレーン』という装置が2基装備されている。これはクレーンのようにアームを上方に展開し、下部までケーブルを張ることでスキャンイーグルを「引っかける」ことにより回収するシステムとなる。艦首にはスキャンイーグルのカタパルトも備えており、発着を同時に行える。


「要するに、無人機の空母としての役割も持ってるわけですっ。この艦が持つ偵察能力とデータ通信能力で、あおばやベル・ドワールの能力を補完できるわけですよ! あのトカゲマンの姿をとらえたのも、リウカの無人機からなんですから!」

「自己完結するシステムではなく、他の艦との連携で能力を発揮できる艦、というわけですか」

「そう捉えてもらって構わないね」


 ライザのより簡潔な総評に、菅野も納得して笑みを見せた。


 それに続き、佳代子は最後の艦艇の説明に戻る。


「次は航空機運用艦のクロンヌですね。こっちはすごいですよ、60mもある大きな船なんですよ! 乗員の数は多くなっちゃいましたけど、F-35を運用するなら、最低限これだけないと降りる時が大変ですからね」

「確かにF-35は強力な戦闘機ではありますが、ヘリに比べて制約が大きいのが欠点ですね」

「それでも運用しない手はないですよう!」


 長嶺は懸念しているが、佳代子はかなり肯定的だ。攻撃から偵察まで幅広く行える戦闘機の存在は、それだけでも強力な戦力となる。


 クロンヌは全長60m、幅12mと大型の艦艇で、動力は電気推進と魔力での推進となる。艦のリソースをほぼ全てF-35Bの運用に回しており、武器も12.7mm機銃が複数設置されているに留まる。その代わり、後部の船尾楼を改造したハンガーに機体の半分を収容可能で、天幕と合わせて潮風除けが可能となる。艦底部の弾薬庫からF-35Bへ武装を搭載するためのシャフトも備えられており、名実ともに航空母艦と名乗ってもいい規模を誇る。


「こちらは無人機だけじゃなくて、本物の戦闘機を運用するんです! まさに異世界の空母ですよう!」

「ほとんどCAMシップのようなものですが」

「言えてる」


 佳代子はまたしても興奮気味に言うが、長嶺や菅野は冷淡だった。空母と言っても、戦闘機1機だけでは大した攻撃力を持たないのだから。

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