130話 盾の綻び
「敵機30機が主砲防空圏を突破!」
『こちら艦橋! 12時、3時、9時、11時方向から敵機、まっすぐ突っ込んでくる!』
「ファランクスの装填はまだか!」
『あと10秒!』
「く……12.7mmを追加配備、立検隊の人員は小銃と携SAMで敵機に対応せよ。レーダーの出力を落とせ」
「了解。SPY-7、出力カット!」
敵集団の急接近に、CICは今までにないほど重苦しい空気に包まれていた。思ったより敵の密度が高く、ジブチ基地への補給品だったアサルトライフルや携帯式の対空ミサイルまで持ち出して対応せざるを得なくなっていた。
そんな状況にロッタも危機感を覚えたのか、剣を抜いて矢沢に対し声を荒げた。
「我も行くぞ! お前たちを支援する!」
「任せる。君は艦首側の上甲板を頼む」
矢沢はロッタの目も見ず答えると、すぐさまレーダー画面に意識を集中させる。
敵機は総計300機近くを撃墜、100機を撤退させた。主砲の活躍が大きいものの、ファランクスや遠隔操作機銃の効力も大きい。
ただ、それでもミサイルをほとんど撃ち尽くし、フロランスによる装填作業でも現在は4発を追加できたに過ぎない。
想定外も甚だしい圧倒的な数の暴力に対し、単独かつ制空権を奪われるという全力を発揮できない不利な状態での応戦。さすがのイージス艦でも追い込まれつつあった。
*
「すみません、遅れました!」
アメリアは艦内放送を聞いて一度艦内に戻っていたが、立検隊の展開を聞いて飛行甲板へ戻った。そこには既に立検隊の濱本と大宮を始めとした隊員8名がいて、車両の部品などを積み上げて作ったバリケードの後ろでアサルトライフルなどの武器を整備しているところだった。
「別に来なくともよかったのに。君はお客さんだからね」
「いえ、私も戦います。私だって、ジエイタイの仲間なんですから!」
濱本が心配そうに声をかけるが、アメリアに退く意思はなかった。
偽装のためとはいえ、一度は自衛隊の幹部として制服をまとった身。それに、リアの言葉の意図も実践すべきだと思っていた。
今自分がすべきことは、仲間を守ること。例え相手の戦力が巨大でも、決して諦めないこと。そして、自分には艦を守るだけの力があると自信を持つこと。それを決めた以上、覚醒はできるはず。
「言うじゃないか。それじゃ、よろしく頼むぜ」
アメリアの決意表明を、大宮も歓迎してくれた。親指を立てて白い歯を見せる大男の姿は、おおよそ今から戦いに臨むようには見えなかった。
「さて、来たぞ!」
「はい!」
濱本の掛け声と共に、アメリアは魔法防壁を解放した。敵が飛行型ならば、主にレーザーで対抗するしかないのは明白だった。
アメリアは真正面、つまり艦の後方から接近しつつあるグリフォンの魔力を魔法防壁で捉えていた。同時に濱本も無線機でCICからの指示を受けながら、双眼鏡で敵の姿を確認する。
「敵機7機、6時方向! まっすぐ突っ込んでくる!」
「任せろ!」
大宮は瀬里奈の身長以上もある、先端に機械部品や金網状の部品が付いたパイプを持ち上げ、バリケード越しに敵へ向けた。他の隊員3名もそれぞれ同じ武器を担いでいる。
91式携帯地対空誘導弾と呼ばれる、人の手で持って発射するタイプの対空ミサイルであり、接近するヘリや軽航空機を撃墜するのが任務となる。
アメリアは警戒を続けながらも、これから何が起こるのかと半ば期待しながら大宮の後ろに立って見ていた。
だが、そこにすかさず濱本から注意が入る。
「アメリア、今すぐミサイルの後ろからどいてくれ。じゃないと死んでも知らないぞ」
「えっ、あ、はい……」
アメリアは困惑しながらも濱本の言うことを素直に聞き入れ、すぐに脇へと移動した。それこそ、彼の剣幕が部下を叱責する時のそれに似ていたからだ。
すると、大宮が持つ携帯式ミサイルから謎の甲高い連続音が聞こえ始めた。どうやら発射準備ができたようで、濱本は双眼鏡を覗きながら敵を指していた。
「見えた、あっちだ!」
「よし、攻撃はじめ!」
大宮が掛け声を放つと、蒸気が噴き出すような轟音と共にパイプから何かが発射された。それは煙を噴きながらグリフォンやヘリコプターよりもずっと速い速度で飛翔し、グリフォンの1体へと着弾した。続いて発射された他の物体もグリフォンを射止めていく。
「きゃっ!?」
何が起こったかわからず、アメリアはただ轟音に驚いて目を回していた。彼女が魔法防壁で状況確認を行った時には、4体のグリフォンが感知範囲から消えていた。
「敵機撃墜!」
「まだ来る、油断するなよ!」
アメリアの驚愕をよそに、大宮と濱本は小銃に持ち直して射撃体勢を整える。それを見たアメリアも先のことは忘れて、敵を迎撃するために魔法を発動する準備を始めた。
「敵機3機、6時方向!」
「慌てるな、引き付けて撃て!」
もはや肉眼でも視認できる距離にまでグリフォンたちが接近していた。飛行甲板の上部後方では弾切れのファランクスが銃弾の補充を行っている。ここを防衛できるのは立検隊の隊員だけだった。
「各個に射撃はじめ、絶対に仕留めろ!」
「「「おう!」」」
8名の隊員が一斉に声を上げる。重なり合った声は、アメリアに力強い印象を与えていた。
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