131話 凶刃

「はあっ!」


 アメリアが飛んでくるグリフォンに手をかざすと、得意の魔法である極太レーザーが周囲を白く染め上げた。

 隊員たちは目を塞いでいたため無事だったが、敵のグリフォン編隊はレーザーを警戒して散り散りになり、高度を上げた。


『後部CIWSの装填を終えた。引き続き警戒せよ』

「了解!」


 矢沢からの指示に濱本が答えると、周囲の隊員たちはバリケードに隠れて敵の様子を伺った。それと同時に後部CIWSが再び稼働を始め、アメリアの左から突っ込んでくるグリフォンたちに轟音と銃弾を撒き散らしていく。

 その間にも隊員たちはアサルトライフルのマガジン交換や12.7mm重機関銃の配置などを進め、着実に次の戦闘に向けて準備をする。


「ふぅ、これでしのぎ切りましたね」

「まだだぜ。CIWSは合計で20秒くらいしか射撃できないんだ。すぐ弾切れになる。前もってフロランスさんに増やしてもらったとはいえ、そう長く持つものでもないんだ」

「発射する数が多いと、消費も早いんですね……」


 バリケードに隠れて気を抜くアメリアだったが、大宮に言われて気を取り直す。ファランクスを稼働させるまでの一時しのぎと思っていたが、そうではないようだ。


「こっちはオッケーだ!」

「右舷重機関銃、配置完了!」


 主砲やCIWSの射撃が巻き起こす騒音の中、隊員たちは慣れた手つきで武器を配置していく。これも万が一の時に備え訓練を繰り返していたものだが、実際に敵を前にした彼らの目はいずれも強い光が宿っていた。


 アメリアにはすぐにわかった。死にたくない、生き残りたい、そのためには全力で戦う。その強い意志が感じられる。


 ひと時も気を抜かず、ただ戦いに目を向ける。アメリアに軍事組織の入隊経験はない故に見落としがちだが、常に緊張を保つことも大切なことだと彼らは教えてくれる。


 だが、現実は甘くはない。CICから次の指示が飛んでくる。


『敵機が後部から接近中。CIWSの対処能力を上回っている。迎撃せよ』

「よし、来たぞ!」


 濱本の号令で、隊員たちが武器を構える。アメリアも魔法防壁で敵の位置を探知し、魔力を収束させてレーザーの発射に備えた。


「敵機接近、16機が向かってくる!」

「くそ、多いな!」


 臨時で立検隊の予備員に指定されている青木2曹が悪態をつくが、敵はそんなことなどお構いなしに突っ込んでくる。先ほどの戦闘で学習しているのか、軌道を少しずつ変えながら接近しつつある。CIWSは右舷の敵にかかりきりで、とても抑え込める状況ではなかった。


「敵はバラバラに突っ込んでくる、火力を集中させるんだ!」

「撃て!」

「はああっ!」


 艦尾から接近するグリフォン16機に対し、重機関銃や小銃、レーザーの一斉射撃が洗礼を浴びせる。

 ただ、敵は低速とはいえ航空機程度の速度がある。大戦期の戦艦に装備されていたような射撃指揮装置の援護もない中、撃墜できたのは4機がせいぜいだった。


「来るぞ!」


 残った12機のグリフォンが目視距離まで近づくと、彼らの魔力量が爆発的に上昇しつつあるのをアメリアは感じた。

 強い攻撃が来る。とっさにアメリアは大声を張り上げた。


「逃げて! 攻撃が来ます!!」

「ギエエエエェェェェェーーーッ!」


 次の瞬間、グリフォンたちが車のタイヤほどもある火球を次々に発射してきたのだ。

 隊員たちはバリケードに隠れたが、発射されたうちの1発が右舷格納庫の扉に命中し、破片が大宮らを襲った。


「ぐああっ!」

「オオミヤさん!?」


 大宮を含め、3人の隊員たちが爆発に巻き込まれていた。3人とも砂粒程度の細かい金属片が腕や脚に刺さっているだけで軽傷だが、脚をやられた大宮は立てそうになかった。


「いてえ……そ、それより来るぞ」


 大宮に駆け寄るアメリアだったが、彼は構わずグリフォンたちを指差す。


「ええ、任せてください!」


 アメリアは再び魔力を魔法防壁に収束させると、白兵戦に備えて光の剣を1振り召喚する。


「撃て! 撃ち続けろ!」

「だああおっ!」


 接近しつつあるグリフォンのうち、3機が銃弾に当たって海に墜落した。それでも敵は接近を続け、火球を上から浴びせて隊員たちの弾幕形成を阻害した。

 魔法防壁は魔力の原動力、攻撃を受けて無為に削られるわけにはいかない。アメリアもバリケードに隠れてやり過ごし、攻撃のタイミングを待った。


「へへ、やっと着いたぜ!」

「よくもやってくれたな、クソ野郎ども!」


 隊員たちがバリケードに身を隠している隙に、グリフォンに乗っていた騎士たちが飛行甲板に降り立った。顔まで銀の甲冑で覆い、槍を持った性別不明の騎士が3名、胸当と臑当のみの軽装剣士や魔法使いが6名、うち1名が女性だった。

 甲冑軍団の表情はわからないものの、軽装兵たちは仲間を殺された怒りを感じてか激しい憎悪の表情を見せる男に、やっと地に足をつけて戦えるのを喜んでか不敵な笑みを浮かべる女と、それぞれ覗かせる感情は全く違っている。


「敵兵士が飛行甲板に侵入! 援護求む!」

『ネガティブ。現有戦力で対応せよ』

「くそ……」


 状況を報告し増援要請を出した濱本だったが、あっさり拒否されてしまう。戦闘中で人がいないのはしょうがないが、侵入を許してしまえば元も子もないというのに。


「我々の本領発揮だ。行くぞ!」

「っ、させません!」


 そう言っている間もなく、女性剣士の号令で剣や槍を持った兵士たちがバリケードに突撃を開始。残りの杖を持った男たちも魔力を収束させて攻撃準備を行いつつあった。

 アメリアは自身の周囲に無数の光弾を作り出し、それを敵の魔法使いに投射する。魔法使いたちはとっさに魔法防壁の防御機能を強化しダメージを大きく減衰させたが、そのせいで攻撃魔法をキャンセルしてしまう。


「撃て、撃ちまくれ!」


 突撃は最も基本的な行動だが、それを破砕するのは間断ない弾幕の展開だ。5名の隊員たちは重機関銃や小銃を一斉に発砲し、敵の掃討を試みる。

 突撃してくる6名のうち、5名は高貫通力を誇る小銃弾に甲冑や騎士服を貫かれて命を散らしたが、女性剣士だけは真っ赤な防御魔法陣を展開して銃弾を防いでいた。


「な……!」


 隊員たちが驚愕する中、後ろにいた魔法使いたちがすぐに撃てる低威力の魔法を連続で投射。アメリアも防御魔法陣でバリケードの一部を保護していたが、その隙を伺った女性剣士が防御魔法陣をキャンセルして上へとジャンプした。


 弾幕の射線から逃げた女性剣士は、剣に魔力を込めながらバリケードの裏に着地。得物であるクレイモアを振り上げた。


「お前たちも、痛みを味わえ!」

「ハマモトさん!!」


 アメリアの絶叫が響き渡り、隊員たちが小銃を剣士に向けようとする間に、剣士のクレイモアが濱本の胴体を切り裂いた。


「うぐ……あ……」


 所持していた20式小銃ごと濱本胸が切り裂かれ、その場におびただしい量の鮮血が飛び散った。

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