129話 際限なき防空戦闘
「敵編隊の一部が戦線離脱。戦意を喪失したものと思われます。中には墜落したものもいる模様」
「よし、去る者は追うな。密度の高いエリアへ主砲を指向」
「主砲射撃準備。自動射撃にて待機中」
矢沢が指示を下すと、砲の射撃を担当する女性管制官が淡々と報告を返した。
48発のミサイルを投射したことで、およそ100騎以上のグリフォンが無力化された。敵が密集していることも幸いしたが、相手が動物であることも無力化の大きな要因だろう。
動物は爆発や炎など、何かに驚くと動転する。馬などの陸上動物では頭を打つ程度がせいぜいだが、グリフォンが暴れて空の上から落ちればひとたまりもないだろう。
『艦橋より報告。目視にて敵機を確認。目標は近衛騎士団のグリフォン騎士隊』
ただ、敵はまだ突っ込んでくる。戦いはまだ始まったばかり、気は抜けなかった。艦橋からの報告を耳にしながら、矢沢は息を呑んだ。
「敵編隊、主砲射程圏へ侵入」
「敵の数が多い、5キロ圏内に侵入した敵機はファランクスとRWSに任せるように」
「了解。主砲、攻撃はじめ」
矢沢の指示通りに主砲へ射撃所要を入力した管制官は、徳山の指示に合わせて主砲の射撃トリガーを握った。ドン、ドン、と腹の底にまで響く発砲の衝撃がCICにまで届いていた。
主砲は米軍イージス艦であるアーレイ・バーク級と同じ62口径127mm砲だが、主要目標が地上であるが故に、こんごう型に搭載されているイタリア製の54口径127mm砲に比べて射撃速度が半分以下にまで落ちている。それでもセスナ程度の速度で飛んでくるグリフォン相手には強力すぎる兵装ではあるが。
主砲の射撃が数発程度続いたところで、レーダーから敵機を示すアイコンが徐々に消滅しつつあった。1機、1機と確実に撃墜しているのだ。
レーダー上で繰り広げられる現代の戦闘。先ほどから一歩引いたところで見学していたロッタは、腕を組みながらそれを眺めていた。
「やはり我には性に合わん。図上演習を眺めているようだ」
「向こうの世界での海上戦は戦闘距離が極めて長い。それこそ数百キロ単位での戦闘になる。外を見張ることも大事な要素ではあるが、指揮はここで行う方が効率がいい」
「ああ、そうらしい。見たところ、お前たちは情報の更新速度が極めて速いようだ。常に更新され続ける情報に対して的確な判断を下す。その繰り返しを行っているからこそ、お前たちは強いのだな。そして、ここはそれを為すための情報センター、というわけか」
「その通りだ。それを我々は『OODAループ』と呼んでいる」
矢沢は戦闘中ゆえに流し気味で淡々と答えたが、内心ではロッタの鋭い観察眼に感嘆していた。
敵の観察、得た情報を基に状況判断、何をするか決定、そして行動に移すこと。その繰り返しがOODAループと呼ばれる行動指針だ。
ロッタはやはり指揮官として高い適性を持っている。幼女体型の15歳で子供っぽい性格だが、全く理解できないであろうイージス艦の戦闘を自分なりに解釈し、そして適用されている行動指針の内容を言い当ててみせた。それも20世紀に生み出された概念をだ。
年齢と体格が水準に達し、股間さえ蹴ってこなければ、すぐにでも自衛隊に勧誘したいほどだ。矢沢は素直にそう考えていた。
「艦長、次の編隊が接近中です。新たに300騎前後が接近中。敵機、主砲防空圏を突破。まっすぐ接近してきます」
「CIWS、攻撃はじめ! RWS、各個に射撃はじめ!」
続いて、艦の前後に1基ずつ設置された防空火器、ファランクス20㎜機関砲がボタン1つで稼働した。
対空ミサイルや主砲の迎撃さえ潜り抜けられた際の、艦を守る最後の砦。それがファランクス──海自では高性能20㎜機関砲と呼ばれる──レーダーを装備したバルカンだ。この手の武器は近接防空システム、通称「CIWS」と呼ばれ、敵の捜索から射撃指揮、そして敵への攻撃を全自動で行う。
接近しつつあるグリフォンの編隊を自身のレーダーで捉えたCIWSは、全自動射撃で20mm弾を目標にばら撒く。レーダーで自動射撃する関係から曳光弾が無いために、傍から見れば小さな白煙を噴いているだけにしか見えないが、銃弾の攻撃を受けたグリフォンと騎士たちは攻撃準備を整える間もなく細切れの肉塊を海に散らしていった。
それから20秒でファランクスは銃弾を撃ち尽くした。敵の様子を報告する菅野に続き、徳山が矢沢に報告を行う。
「敵第1波、全機撃墜。敵編隊第2波、今なお接近中」
「艦長、ファランクスの残弾ゼロ。装填作業に入ります」
「了解。作業を急げ。隊長機にミサイルを指向。全弾撃ち尽くしても構わない」
「了解。トラックナンバー2870から2882、各個に射撃開始!」
SM-6は既に撃ち尽くしたので、SM-2が12発ずつ敵に向けて発射される。とはいえ、第1波もしのぎ切ったばかり。ミサイルの残弾が無い中、あおばの戦いはここから始まると言っても過言ではない。
「ここからが正念場だな。各自、気を抜くな」
隊員たちは返事こそしないものの、各々の任務を粛々とこなしている。絶対に負けられない戦い。それは誰もが認知していることだ。
グリフォンの第2波が主砲の防空圏に進入した時、それが本当の戦いの始まりだった。
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