94話 完全なる敗北
「せい! はっ!」
アメリアは2振の剣を交互に振るが、ヤニングスはいずれも回避。バックステップを繰り返して距離を取ると、剣を振り衝撃波を放つ。
当然、アメリアは体を逸らせて避け、白いレーザーを放った。
「なるほど、やりますね」
ヤニングスはレーザーを防御魔法陣で防いだ。防御された高エネルギーの光が魔法陣を中心に、放射状に拡散して城壁や地面を切断する。
「私もオルエ村の元守護者です。決して遅れは取りません!」
「オルエ村……そうですか、あの村の」
ヤニングスは合点がいったかのように小さく頷いた。アメリアは知らないだろうが、彼は村をライザとの合流地点に設定し、そのために守護者のほとんどを薙ぎ払ったのだ。
「やっぱり、外でも噂になっていたんですね。独立した閉鎖状態の村だって」
「そんなところです」
レーザーを放ったアメリアは。立て続けに接近して2振の剣を上段に振りかぶり、同時にヤニングスへと叩きつけた。
だが、ヤニングスはひらりと身をかわすと、がら空きになったアメリアのわき腹にレイピアの突きを放った。
「うっ!?」
ヤニングスのレイピアには魔力が込められているらしく、ある程度は魔法防壁に防がれたが、それでもアメリアを痛みで行動不能に陥らせることには成功した。
その隙を逃さず、ヤニングスはレイピアを上からアメリアの頭に叩きつける。
「ぐう……あっ」
刃でのダメージは極めて小さいものの、それでも強い魔力が乗った打撃は確実にアメリアの戦闘力を奪っていた。
ライザ相手には機能していた魔法防壁も、ヤニングスの膨大な魔力の前には無力に等しい。これほど圧倒的な力の差があるのかと、アメリアは混濁する意識の中で心中に浮かぶ。
「あの男、全く本気を出していないな。我の時より力をセーブしている」
「そうねぇ。ほとんどナメられてるわね、アメリアちゃん」
ロッタやフロランスも諦めているのか、嫌に冷静な表情のまま言う。
AH-1Zの検分をした際、ロッタは本気ではないヤニングスに何もさせてもらえず倒された、と言っていた。それが本当なら、アメリアはただの遊び相手でしかなかったというのか。
「強すぎる……」
魔法での戦いは門外漢である矢沢でさえ、小銃のグリップを握り締めたまま唇をかむしかなかった。
これはアメリアが決めたこと。最後まで援護はしないと決めていたが、もはやその段階を通り越している。矢沢は89式小銃の安全装置を外し、射撃に備えた。
「艦長、アメリアちゃんを回収しないとやばいですよ!」
「せや、うちが!」
「やめろ、瀬里奈!」
アメリアを助けようと飛び出しかけた瀬里奈を、矢沢は全力で阻止した。肩を引っ掴み、強引に矢沢の方へ引き寄せる。
「何すんねん! アメリアを助けな!」
「それは我々の仕事だ!」
何としても瀬里奈をヤニングスへ近づけるわけにはいかない。アメリアは戦士だが、瀬里奈はそうではないのだ。
「愛崎、ロッタ、先の戦闘中に無線で助けを呼んだ。すぐにシーホークが援護に来る。愛崎、高機に乗れ」
「りょ、了解です! やった、助かる……」
「では、何としても助け出さねばな!」
愛崎が涙を浮かべながら喜ぶ中、ロッタは剣に魔力を込めて飛び出した。ヤニングスもすぐさまロッタの動きに気づき、アメリアから離れる。
「なりふり構わず、ですか」
「こっちも生きるのに必死なのでな!」
ロッタの剣戟をレイピアではじき返したヤニングスは、次の瞬間にはロッタの背後に回り込んでいた。
「またそれか!」
ロッタは右肩に発生させた小さな魔法陣から魔力を発し、弾かれるように方向転換を行う。刃が来るより前に、ロッタのバスタードソードがレイピアの太刀筋を防いだ。
「っ、腕を上げましたか」
「お前子飼いの密偵を一撃で叩き潰せる程度にはな」
ロッタは柄に力を込め、強引にレイピアを振り払った。
アメリアとの戦いでは見せることのなかった凄まじい動きに、ロッタは対応できている。
やはり戦士としての格が違う。単純な魔法防壁の強さだけでなく、経験や知識に裏打ちされた思考力と対応力がロッタを強い戦士たらしめているのだ。
「アリサから聞きました。気づいた時には既に倒されていたと。ならば、手前も相応の力を発揮せざるを得ません」
ヤニングスは冷や汗を流しながらも口元を緩め、腰に吊ったブロードソードの柄に手をかけた。
だが、それと同時に付近の城壁が突然爆発を起こし、辺りに砂埃を撒き散らした。
「く、何ですか今のは!」
「ヘルファイアの攻撃だ! 救援が来たぞ、走れ!」
矢沢が叫ぶと、ロッタはすぐさまアメリアを抱えて戻り、高機動車のルーフフレームに乗り込んだ。
「ようやくか。出せ!」
ロッタが叫ぶと、愛崎は勢いよくアクセルペダルを踏んで高機動車を走らせる。
「逃がしはしませんよ!」
ヤニングスはすぐさま砂埃を払って反撃に転じようとするが、高機動車と空から銃弾が飛んでくる。激しい弾幕にさらされ、ヤニングスはとっさに厩舎へ隠れることしかできなかった。
「この音は……そうですか、このためにわざと日数をかけたのですね」
ヤニングスは遠くから聞こえるヘリのローター音に気づき、怒りを抑えながら目を瞑る。
今回は戦術的敗北。状況はあちらへとわずかに傾いたことを、ヤニングスは逃げ去る車とヘリのエンジン音を聞きながら感じていた。
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