54話 サポート体制
ユーディスで捕縛した奴隷商人ハバリオス、もといバリーの話によれば、このハイノール島では人族とエルフ族の奴隷商人が商売をしていて、互いに別種族の奴隷を売買している。
エルフ族は水との調和を重んじる種族であり、アセシオンが存在するスタンディア大陸とは海洋を挟んだ対岸のシャルファラ大陸にアモイ王国という国家を築いている。
アメリアやロッタのような人族に比べ、全体的に陽気で享楽的な性格をしているとされているが、一方で仕事を好まず、排他的であるとも言われている。
彼らの仕事と金稼ぎを好まない性格のため、単純作業やその他雑務は奴隷にやらせることが多いという。その一方でさらなる富を求めて国を拡大しており、奴隷はいくら輸入しても足りない状況が続いている。
エルフからの奴隷需要は供給量を大きく上回っている。市場価格は上昇傾向にあり、そこに目をつけた各国の傭兵や腐敗役人がこぞって人さらいをしてハイノール島に運び込んでいるのだ。この人さらいはどこの国や組織でも切っては切り離せない問題となっている。
だが、これを国ぐるみで行っているのがアセシオン帝国であり、アクアマリン・プリンセスの乗員乗客もその被害に遭っている。
「つまり、エルフは奴隷が生み出される原因を作る人権の敵ってわけですかね?」
「濱本くん、確かに数多の奴隷を使役している点においては歓迎できない国家ではあるが、奴隷の取引を行うブローカーや人さらいはアモイ王国以外にも多い。特にアセシオンの行為は目に余るものがある。短絡的な思考に陥らないようにせねばな」
「は、はい」
矢沢に諭された濱本は、目を逸らしながらも頭を下げた。
リーノの市場を歩き回りながら隊員たちへ情報確認を行ったところで、矢沢は牛の胃袋で作った水筒から水を飲んで一息ついた。
* * *
『えーっと……これでいいんですか?』
「オッケー、ばっちり聞こえてる」
通信機の向こうからアメリアが話しかけると、波照間は軽く返事をする。
前回の戦闘で病状を悪化させていたアメリアだったが、現在はあおばの医務室にいながら通信機を介してサポートを行う手筈となっていた。
現在は裏路地で通信状況の確認を行っているところだった。波照間と矢沢のみが持つ部隊間通信機であるHF帯通信機の他、街に出ている6名の隊員全員が持つUHF帯通信機の確認を行っていたのだった。特にUHF通信機は遠距離になっても電波が届くよう、スキャンイーグルに中継器を乗せて空中待機させているので、その確認作業も必要だったのだ。
『よかったです。手伝えることは少ないかもしれませんけど……』
「いえ、知恵は多い方に越したことはないから。それに、あなただって病室にこもりっきりじゃ暇でしょ?」
『あはは、そうですね……』
波照間はアメリアが知り合いがほとんどいないあおばの艦内で心細く思っているだろうと考え、文化的なサポートと称してアメリアと回線をつなぐことで元気づけようとしていたのだ。
もちろん、今回は任務であることに変わりはない。アメリアとの信頼醸成という点においても有利に働く他、文化的なサポートはただの建前ではなく実際に必要なものなのだから。
「それじゃ、僕たちも行きましょうか」
「ええ」
佐藤が声をかけると、波照間はトランシーバーを腰のベルトに吊った。
なお、ここでチームを2つに分け、3名ずつで行動することになる。
波照間と佐藤、濱本がBチームとして分けられ、この街の基礎調査と現地協力者の確保を行うことになる。
前回のユーディス偵察時には騎士団の協力者と接触するためロッタが加わっていたが、今回は矢沢とロッタ、大宮のチームAが担当することになり、波照間らBチームは別の民間人協力者を探す手筈となっているのだ。
『すみません、本来なら私が行かないといけないんですけど……』
「いいのいいの。あなたは治療に専念すればいいんだから」
通信機の向こう側で申し訳なさそうに言うアメリアをなだめる。彼女が真摯に向き合ってくれるのはありがたいものの、それ故に危なっかしさも覚える。
波照間をリーダーとしたチームBは裏路地を抜け、商店街で目的の店を探していた。その辺に並んでいる即席の屋台などではなく、少し大きめの商館らしい。
「ところで、そのナントカさんってどういう人なの?」
「シュルツさんです。父の古い友人で、私が知っている限りだとハイノール島に拠点を置く鉱石のディーラーなんです。主に灰重石の取り扱いをしていたそうで、ここ数年で市場の大きな変動がなければ今も続けているはずです」
アメリアは記憶を手繰るようにゆっくりと話を進める。彼女曰く7年前の情報なので不確実情報ではあるが、接触できれば現在のハイノール島での物流を知るための大きな戦力となりうる。
「灰重石というと、タングステンを多く含む鉱石よね。だとすると、この世界だとタングステンが多く使われてるの?」
『はい。主に武器に使われる材料で、威力向上のために魔法で高熱をまとうことがある剣や槍などの刃に合金を使用します。こうしないと鉄製の剣などは魔力の影響を受けてすぐ使い物にならなくなってしまうので……』
「つまり、どういことなんだい……?」
アメリアの説明だけでは理解が追い付かず、佐藤が質問を投げかける。
『あ、そうですね……タングステンには魔力をため込む性質があって、そうではない鋼鉄などの材料に混ぜ込むことで武器に魔力を込めることができるようになり、相手の魔法防壁を突破しやすくなります。鋼鉄は魔力とは親和性が高くないので、強引に魔力を込めると変形や劣化を引き起こしてしまうんです』
「ふーん、そういうことなのね……」
アメリアの説明が何となくわかったのか、波照間は小さく頷く。
地球では戦車の砲弾や装甲に使われる金属が、こちらの世界では剣などに使用されている。よく知る物でも、世界が変われば予想だにしない使われ方をされることもあるのだなと波照間は感心していた。
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