1章 帝国騒乱
25話 偵察開始
「スキャンイーグル6号、発進!」
アクアマリン・プリンセスの甲板から、無人偵察機スキャンイーグルがカタパルトから勢いよく打ち出された。後部のプロペラを回し、北の空へ悠々と飛び去っていく。
「これで全機か」
「はいっ、これで全部ですよ!」
矢沢の問いかけに、佳代子は元気たっぷりに返事をする。
スキャンイーグルの運用は佳代子に任されることになり、操縦を行うヘリパイロットや船務科の隊員たちが彼女の下へつくことになった。
矢沢はモニターの映像を確認するが、どれも森と空しか見えない。この近辺は全て森になっているようだった。
「あれは北部への幹線道路だな。よし、そのまま道なりに沿って進め」
「あ、見えました。西側の幹線道路です」
ロッタやアメリアは彼らの後ろにつき、行き先をナビゲートしていた。本来ならばアセシオンの騎士にも付き合ってほしいと考えていたが、彼らには何度頼んでも協力を得られなかった。
とはいえ、アメリア経由で村から手に入れた地図や、ロッタたちがアセシオンの騎士から没収した地図と重ね合わせ、偵察範囲の絞り込みを行っている。それほど時間はかからないだろう、と矢沢は楽観的な予想をしていた。
それから数十分後、最初に発射したスキャンイーグルが都市に進出した。矢沢と佳代子はそちらへ注目し、画像を精査していく。
その都市はビステルと呼ばれる商業都市だった。オルエ村から30㎞ほど北に存在する都市であり、アセシオン制圧下にあるダリア王国諸都市と帝都を繋ぐ重要な都市らしい。
それを操縦する三沢は、画面を食い入るように見つめていた。
「艦長、今のところ客船の乗客らしき集団は見当たりません。低空飛行を──!」
三沢が次の句を継ごうとしたところ、都市を映していたモニターが砂嵐に変わった。三沢は息を呑み、席を立つ。
「あ……うー」
「スキャンイーグルからの通信が途絶えました。撃墜されたと思われます」
佳代子の間抜けな絶句など意に介さず、三沢は淡々と佳代子に報告を行う。当の彼女はしょんぼりしながら備品記録からスキャンイーグルを1機削除した。
その脇で、矢沢は人差し指の背を顎につけ、目を瞑って分析を行う。
「村の守備隊に破壊されたか、それとも皇帝軍の仕業か……」
「服装判別のため低高度を低速で飛行していたせいかと思います。皆さんは高度を2000以上に取った方がよろしいかと」
「了解」
三沢はすぐに平静を取り戻し、他のパイロットへ注意を促した。各々が操縦桿を引き、機体高度を高くとる。
スキャンイーグルの撃墜を受け、矢沢はアメリアが使っていた炎を飛ばす魔法を思い出していた。彼女のように遠距離攻撃を行える者が普通にいるのだとすれば、激しい対空砲火を行うことも可能ではないかと。
それ以上に、カメラに何の前触れも映ることなく撃墜されたことも気になっている。低高度を飛ぶ飛行物体に精密攻撃できるとすれば、有人ヘリが攻撃を受ける可能性さえある。その辺の小さな村にも無数の対空機関砲があるのと同義、もはや軽航空機にとってみれば地獄でしかない。
「この世界でやっていくのは大変そうだ」
次々に明らかになってくる、異世界の実情。矢沢はアメリアと接触できたことを感謝すると共に、攻撃を受けなくてよかったと心底思っていた。
「大丈夫ですよかんちょ、まだまだスキャンイーグルは残っていますし!」
「松戸くんは危機感がなさすぎる」
「え、そうですかぁ?」
佳代子は不思議そうに首をかしげる。本人はスキャンイーグルが無人だから大丈夫なんだと思っているのだろうが、有人ヘリも運用していることは頭から抜け落ちているようだ。
* * *
しばらく偵察を続けた結果、拉致被害者と思しき集団を1か所だけ発見できた。
客船から北に50㎞ほど離れた森の中で、100名ほどの集団が密集して歩いているところを波照間のスキャンイーグルが捉えたのだ。
しかも、交通に使われている幹線道路ではなく、獣道もないような険しい場所で偶然発見したのだ。
「こんなところを大集団で行動しているのはおかしい。ヤザワ、お前たちの探し物かもしれないぞ」
「そうであることを期待したいものだ」
矢沢は怒りを抑えながら、努めて平静に言う。
普通の商業移動でも、ましてや捕虜の扱いでもない。どう考えても特殊部隊が隠密行動する際に取る山岳機動そのもの。その過酷さは普通の山登りなど比較にならず、元特殊部隊員である矢沢の身にしっかり刻まれている。
それを軍人にさせるならともかく、老人や子供もいるはずの一般人に強いるなど虐待以外の何物でもない。地球基準なら戦争犯罪だ。
「すぐにヘリで出発だ。波照間2尉、三沢2尉に操縦を代われ。この場の指揮は副長に一任する。副長、スキャンイーグルでの偵察は続行。ただし緊急出航の準備は怠るな」
「了解」
「了解」
「りょーかいですっ!」
事務的に、そしてハキハキと返事をする波照間と三沢、そして普段通り間延びした大声で返事をする佳代子。両者の姿勢の違いが明確だ。
とはいえ、佳代子自身の能力が低いわけではない。ただ、少しばかりおバカなだけなのだ。矢沢は自分にそう言い聞かせ、その場を後にした。
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