About my sisters.

本編

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私の妹はずっと歳の離れた姉に似てい乍らそれ以上の尤物で、今年数えで十七歳になる

姉の美しさとはどんな人でも話しかけたくなるような愛嬌を包含していた御蔭で一寸前までは舞踏会や祝賀会で我々の家の華とならねばいけなかったさて妹はというと反ってその美しさが人を寄せ付けない程のものであることを記しておかねばならない例えばとある宝石を眺めていると「綺麗だ」と吸われてゆくような感覚があるが殊に彼女においては目を向けられれば反らさざるを得ず声を掛けられれば口を噤まざるを得ず、と兎にも角にも腰を竦めて逃げ出してしまいたくなる程に恐ろしい美貌なのであった彼女のような人間に全くもって無粋なものがあるとすればそれは主体であるしかしどだい周りが頑になって得させようとはしなかった彼女の目はいつだって空虚で身体の力は抜けきってその肩や腰まわりからのびる花弁のような手足がぷらんと垂れていて尻まで覆い隠すようにのびた長髪が漆器のようにあたたかみのある鈍色を反していた

皆が「お人形さん」だと言うその実私もそのように思ったそしてそんな哀れな彼女に唯一寄り添ってやることのできた男は片割れであるこの私ばかりだった

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私の部屋は洋室で壁に取り付けられた照明は花弁を模したものであるが如何にも眩しいのが苦手で仄暗いのが好きなのでいつも蝋燭を部屋の彼方此方に点けていた部屋に居る時間が増えると全く生活様式も変わるようである。すると扉が四度ほど叩かれ

「お兄ちゃん、少しいいですか」

物憂げな面持ちで入ってきたのは妹のみやびであった黒のレエスを重ねたナイトウェアが彼女の鎖骨から膝までを覆っているそこからのびた脚や首筋は炎の揺らめきを静かに映し出して私にふと息を吐かせるのだった、すッと絨毯を擦る音に私の目は再び足元に向かった

「ああまた履物を……足が汚くなるだろう……何度言えばわかるんだ」

「違うのです、みやびのお部屋には幽霊が居たのです、緊急事態でしたのであわてて逃げてきて……」

「成程それは大変だね、では私とお部屋をとっかえっこするかね」

「……みやびに幽霊がつきまとっていてそれで……」

「ならばいちにのさんで結界をはってやろう、ほらいちにの――」

「うう、ばかあ」

とみやびの飛び乗ってきた勢いに私は耐えきれずなかよくふたりでベッドに転げてしまうその広がった髪がときたま紫がかった光を撥ねては直ぐに黒々と深まってゆくその度に菓子のように甘い香りが立つ「ほら、ばかはどっちかね。その汚れた足をかしなさい、拭いてやるから……」彼女をベッドの端に腰掛けさせ私はその下に跪きまずは片足を手に取った指先が少し冷たかった蝋燭のあかりに濡らしながらその縫い目ひとつない肌理だとか青々と透いた血管の微々たる脈動に私は常日頃他の男らの「無機質」と表する無知さをただひとりだけ嘲られるのがこの上ない幸せに違いなかった絹のハンカチをポケットから取り出して摩擦のできるだけないよう柔らかく側面から拭い「痛くはないかね」「はい少しくすぐったいくらい」「そうか、じゃあ続けるよ」踵を左手で支えながら足の凹凸にゆっくりと這わせる踵から手前に引くように……それを終えて今度は足の裏へと向かわす普段あまり歩かないからどこも一様にふにふにと沈んでしまう土踏まずにはひとつだけ、黒子があってそこを爪でちょんとつついてみたりしたその時の表情というと我慢しようと噛んだ唇をわなわなと震わせ、遂に耐えられなくなると「ふふ」と声を漏らした頬と耳に赤みを帯びながら。そうなると彼女は少し汗ばんできて皮膚の質感も色も温度も変わってくる私は湿り気を手に帯びながら今度は細長いアキレス腱の窪みを掴むやさしく爪先を摘まんで足首を回してやると腱はその伸縮につれてかたさを変えた

陰影をゆらめかせる脛だとか五指のやや下から足首へと骨の走るのや踝と腱との抉れのつくる暗がりやその上のやや細まってふくらはぎに丸みを広げながら再び膝できゅッと狭まるこの様を、私は小さく見上げていたみやびの親指は葡萄の粒のように丸々としていてたとえばそれを少し押してみれば赤みが除けたそして私が側面と底面を拭いながら特別触れることを憚っているのはその生爪である四角の薄桃色でコオトを塗っているように艶やかであるがこれはどうやら侍女に毎日特殊なやすりで削ってもらっているのだという成程確かによく「爪も呼吸しているから」と口にしていた潤んでいるように端正に磨かれているものだからどこか指紋をつけてしまうのが酷くいやらしいように思えて毎度触れられないのだった彼女の指頭に布を被せその谷に私は人差し指を沈めてゆくと陰影の濃くなるにつれて熱もまたいっぱいに染みてくるのであった

両足を拭いきってしまうと彼女はその小さなてのひらで私の手を覆ってしまおうと何度も握り込んでくるふわふわの指の腹で擦られる度にその微弱な電流のようなくすぐったさが私を眠りへと誘う、と私はふいに幼年期に立ち返ってしまうようでそこには確かに姉の姿があった

姉は先月に逝かれた当節は疫病の流行でパアティの開催は全て見送りになってしまったまた幼年の頃から社交に富んでいたから人一倍ひとりで過ごす時間に不安を抱きやすく生来の真面目が祟って自責の念に押し潰されてしまったのだと云う

姉の部屋に吊るされた肉塊は果たして本当に彼女のものであったのか紫のぶよぶよとした皮膚は撫でれば撫でるほど冷ややかであり私は尚のこと妹のみやびのことを求めずにはいられなかった

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　お兄ちゃんへ

　君は実はお兄ちゃんなんだ。おばかなことを言うなって？……まあそうかもしれない、君はなにも知らない、私からもお母さんたちからも何も聞いてないと思う。

　君はね、双子なんだ。片割れに女の子が居た。でも産まれてきた女の子は君の体重の五分の一程度でしかなくってたったの三日のうちに、ね。これは本当の話。嘘だと思うならお母さんたちに訊いてみて、きっと話してくれると思うから。

　なんで私から言おうかと思ったのかは……そう、思い立ったからかな。今言っておかないとあの子が浮かばれないから。

　だからお願い。同封してある地図に星印がついているでしょう、そこにたまにでいいから顔を出してあげて。とってもあまえんぼうさんだから……写真はこればかりしか私は持っていないけどあげるね。

　じゃあお兄ちゃん。あとのことはよろしくお願いいたします。

　 姉・茜より

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　私は一葉の写真を恐る恐る眺めると

――手指と、足先のくっついた二人の赤子――。