第5話 甘くないバレンタインはメキシコ料理で(ボジョデモーレ)
午後4時すぎ。
今日はバレンタインデーで日曜日。
コウタさんは突然仕事が入ったとかで、朝から出かけている。
リキさんは在宅、私は本当は中学時代の友達のユナとチョコレートの交換する約束をしていたけれど、向こうの母親に「緊急事態宣言出てるのに出かけるなんて」ととがめられ、中止になった。
あっちの親はとくに厳しいほうじゃないけれど、保育園の園長さんかなんかだったから、
多分その関係で神経とがらせてるっぽい…。
うちの親も医者だから、もしも海外行ってなかったら、おんなじよーにうるさかったんだろうなぁ…(親とは相変わらず連絡取れない、マジでどうしてんのか、心配!)
で、さっきまでユナとビデオ通話したり親とのアクセスを試みたりで、なんやかやと一日がつぶれちゃったのだ、もったいない…。
リキさんに「夕食のしたくをするから手伝って」と言われキッチンへ入ると、
調理台には鶏肉にタマネギ、ニンニク、トマトの缶詰め、ダークチョコレート、赤ワイン、色んなスパイスにアーモンドとレーズンみたいなのが乗っかってた。
「はじめるわよ」
リキさんにフォークを手渡される。
「まず、その鶏肉全体に穴を開けてちょうだい」
言われたとおり、鶏肉全体にプスプスとフォークで穴を開ける、ちゃんと裏返しにしてまんべんなく開けた。
「鶏肉だけどね、今2枚分あるでしょ?アタシたち3人だから、一枚につき三等分にカットしてね」
その
「タマネギは一個丸ごと使わずに半分くらいね」
リキさんもコウタさんも私がレシピをノートに書きとめているのを知っている、
だから毎回わりと丁寧に教えてくれる。
「鶏肉カットしました」
「はい、次はお肉にまんべんなく塩コショウしてね」
言われたとおりに下味をつける。
「次はニンニクを薄くスライスしてね」
今度はニンニクを2粒渡される。
リキさんはアーモンドをさらに細かくカットしていた。
「アーモンドは、そうねぇ…20粒くらいかしらね…そのまんま使わないで細かく砕いてたわね、アタシは包丁で切るけど」
ニンニクをスライスし終えると、リキさんにレーズンのようなものを見せられた、
レーズンっぽいけど、何だか小さい?
「これはね、カレンズといって、まぁ小さな干しブドウだと思っていいわ、もし入手できないなら、干しブドウでもいいのよ、その場合これくらい小さくカットしなきゃいけなくなるけどね、分量は大さじ1くらいね」
へぇ、カレンズなんて初めて知った!
色々と勉強になる。
ここで私は質問をした。
「どこの国のなんて料理をつくるんですか?」
「あらあら、肝心なこと伝え忘れちゃったわね!メキシコのボジョデモーレって料理よ」
「メキシコ、行ったことあるんですか?」
「残念ながらないわ、大学時代メキシコ料理店で働いてたのよ」
へぇ、初耳。
なんとなく、メキシコ料理店で働くリキさんってのが想像できなくて、ニヤッと笑ってしまった。
「あ、今笑ったわね?アタシがメキシコ料理店って似合わないって思ったんでしょう?よく言われたわ」
「いえ、そんな」
私は慌ててしまう。
「いいのよ、アタシそこの店長に一目惚れしたからバイトしたんだから…初めてのカレシだったのよ〜」
リキさん頬を赤らめる、なんか反応に困る…。
「あらあら、手が止まっちゃったわね」
リキさんはそう言って中華鍋に火をつけてオリーブオイルを注いだ。
この
「まず鶏肉を皮を下にして焼いてね」
リキさんは器用に鶏肉を中華鍋の中へ入れて焼きはじめた。
「焼けたな…と思ったら、ひっくり返してね」
片面が焼けた鶏肉をトングで次々とひっくり返す。
「弱火にしてフタして5分くらい煮込んでね」
リキさん、シンク下からフタとバットを取り出した。
煮込んでる間中、コウタさんとのなれそめを話してくれた。
「コウタさんと出会ったのはね、このメキシコレストランだったのよね」
「えっ、コウタさんもそこで働いてたんですか?」
「ちがうわよ〜、コウタさんは常連さんだったのよ〜!当時すでにコウタさん旅行会社は辞めていて社長さんだったんだけどね、ウチの店によく食べに来てたわ…あ、ちゃっかり自分とこで扱っている食材アピールして取り引きしようとしてたけどね」
「へぇ、そうなんですか…お店のバイトと常連さんがくっつくって、現実にあるんですね」
私はこの二人がどれくらいの期間つき合ったとか詳しいこと知らなかったので、
本音では興味津々だった、ゲイの人って、どうやって出逢うのだろう?
「アタシがつき合ってたメキシコレストランの店長さんはね、いい男だったけど浮気者だったのよ」
「えっ」
同性愛者でも浮気者っているのかと、軽くビックリ…。
「しょっちゅう泣かされてたし、二股かけられてたこともあるわ」
なんか話を聞いてると、同性愛者だからと言って特別なことは何もなく、男女のカップルでも起こるようなことが普通に起きてる感じだ。
――今まで自分の身近にいなくて知らなかっただけで、恋愛問題って性別関係ないんだな…――
彼氏いない歴イコール年齢の自分がエラソーに言えたことじゃないが。
「ある日元カレ店長の浮気相手が、なんとコウタさんだったのよ〜!」
「ええええっ!?」
ここでリキさんの爆弾カミングアウトにショックを受けた、現在の恋人が元恋人の浮気相手だって?!
なんか、アタマがクラクラしてきた…。
「も〜、スゴい修羅場だったのよ〜、アタシ現場見ちゃってさぁ〜」
ええええ!?現場って、何ですか?!
気になるけれど、何だか訊けない!
「あら、ごめんなさいね、未成年の純なコには刺激だったかしら…あら、そろそろチキンに火が通ったかしらね」
リキさんはフタを取り、トングでチキンを取り出してバットに乗せた。
「この鍋に、さっきスライスしたタマネギとニンニク入れて…」
続きが聞きたかったけれど、今はそれどこじゃなくなった、私は言われたとおりにタマネギとニンニクを入れた。
リキさんは木ベラで炒めはじめた。
「アーモンドとカレンズを入れてくれる?」
「はい」
「次はスパイスね…シナモンパウダー、ナツメグ、コリアンダーパウダー、チリパウダー、グローブパウダーをそれぞれ小さじ1/2ずつ、お願いね」
そんなにスパイス入れるのか、私はビンのラベルを確認しながら次々投入した。
「スパイスがなかったらね、ムリに入れなくていいのよね、店長は時々スパイス使わないで顆粒のスープの素だけ使って作ってたこともあったな…」
なんだかその方が日本人ウケして一般家庭でも作れそうな感じがする。
「えっと、次は赤ワインを50cc量って入れてね」
「はい」
私は計量カップに赤ワインをトポトポ入れ、鍋に注ぎ込んだ。
「ひと煮立ちしたら…さっきのチキンとトマトの缶詰めを開けて入れてね」
言われたとおりにしたけど、トマトの缶詰めに残ったものがもったいなくて、小さなゴムベラでかき出した。
「そのトマト缶にね、また赤ワイン50cc注げば、取れるでしょ?それをまたココに入れてね」
コウタさんもリキさんもムダなく食材を使う。
「はい、これでしばらく30分くらい煮込みましょうね!」
結構時間がかかるのね…。
私はさっきの話の続きが聞きたくなり、思い切ってみた。
「あの…、それからどうなったんですか?」
この問いかけにリキさんは目をまんまるくした。
「あら、なんだったかしら?」
まさかさっき話したこと忘れた!?
「ああ、そっか、コウタさんとのなれそめを話していたわね!やあね、このコったら!」
やあねって…。
話しをしたがったのはアンタじゃないか!と、内心ツッコんだ。
「浮気の現場見ちゃったアタシ、大泣きしたのよ、この浮気者!こっちはマジで好きだったのにぃ!って…」
そこからの展開がまるで想像がつかない。
「ここで立ち話するのもなんだから、こっち行きましょう」
リキさんに促され、リビングへ向かう。
焦げ茶色の皮張りのソファーに座らされ、スマホの画面を見せられた。
「これがね、店長よ」
画面には、髪の毛を後ろに結びヒゲを生やしたやや顔の濃いイケメンが写っていた。
「メキシコ人なんですか?」
「ハーフよ」
リキさんは昨日コウタさんの過去にだいぶヤキモチを妬いていたけど、人のこと言えない。そう思っていたのを察したのか、
「この写真削除してないこと、コウタには言わないでね」
と、言われてしまう。
「店長とコウタさんはね、セフレだったのよ」
またも私には刺激的なワードが耳に飛び込み、反応に困る。
「でもね、コウタさんは店長と私がデキてるって知らなくて、泣いているアタシ見てビックリしたのよ。本命いるなんて知らなかったって…」
普通に恋人の浮気現場に踏み込んだら修羅場なんだけど、それがどうやって恋人の浮気相手が自分の恋人になるのか?それを男女に置き換えようと想像したら、ワケがわからなくなってきた…。
「コウタさん、怒ってくれたのよ…本命いるならセフレ作るなって…アタシのことかわいそうじゃないかって…アタシはコウタさんに喰ってかかったわ、散々やって楽しんどいて、ネトラレ側に同情するってバカにしてんのか!?って…」
コウタさん、チャラそうに見えて案外真面目?いやいや、そもそも真面目ならセフレなんて存在いないよね?と、ますます混乱した。
「なにを思ったのかコウタさん、アタシのこと口説いてきたのよ、自分も一途に愛されたいって……でもアタシには店長というカレシがいたし断ったんだけどね、それでも熱心に口説いてくるもんだから、心揺らいじゃったのよ」
もう、彼氏いない歴イコール年齢の私には知らない世界だ。
「ところでミクルちゃん、今まで彼氏とかいたことないの?」
う、イタいとこ突かれた…。私は正直に答えた。
「恥ずかしながら、彼氏いない歴イコール年齢なんです」
片思いくらいなら何度でもあったけど、
いつも思いを告げられずに終わっていた。
「芸能人でいえば誰が好きなの?」
おっ、そう来たか、なんか女子同士で恋バナしてる感じだ。
「SnowManの阿部亮平さんかなぁ…あ、でも、現実に好きになる人って、あんま喋んなくても何かに一生懸命打ち込んでいるような…そんなタイプかな?」
ここで密かに中学時代に片思いをしていた先輩を思い浮かべたのだけど、
「それってコウタさんっぽくない?」
いきなり思ってもいなかった方向性をツッコまれ、
「へっ!?」
おかしな声を出してしまった。
「コウタさんって、女目線から見てもカッコいいでしょう?」
いやいや…確かにそうかもしれないけれど…。
「カッコいいとは思いますけど、だいぶ年上ですし、うちの母親のイトコなんで…」
ここでキッチンタイマーがピピピと鳴った。
「じゃ、次はいよいよチョコレートを入れましょうね」
そういえばバレンタインディナーとしてチキンのチョコレート煮込みを作っていたの、忘れてた…。
まさかリキさんとこういう話題で盛り上がるとは、思ってもみなかった。
「チョコレートはね、普通の甘いミルクチョコじゃなく、カカオ72%とかダークで濃いめのを使ってね」
リキさんはそう言って某お菓子メーカーのチョコの箱から10個取り出した。
そのチョコは一個一個包装されていたので、パッケージから取り出す手伝いをした。
「コウタさんの職場で扱ってる輸入チョコでカカオ含有率が高いやつで作れたら良かったんだけどねぇ、まさか今日これ作るとは思っていなかったからね」
そう、今日のこの夕食は昨日突然リキさんが思いついたものだった。
リキさんはパッケージから出したチョコを次々と中華鍋の中へ入れた、なんか中華鍋にチョコが入るってヘンな感じだ。
「チョコはだいたい鶏肉2枚に対し50gぐらいかしらねぇ」
いい匂いがしてきた。
チキンをチョコレートで煮込むと言葉だけで聞いてしまうとゲテモノっぽく感じるけど、苦いダークチョコならアリかもしれない。
「最後に塩コショウね」
ほとんどの料理がそうだけれど、塩コショウに正確な分量がない。
コウタさんにリキさんは料理し慣れているから一発で決まるけど、私がやると恐る恐る入れてくから、何度も入れては味見することになってしまう。
「味見してみる?」
リキさんはお玉からすくって小皿に入れたものを私にすすめた。
シチューのような形状なのでスープみたくすすれなかったけど、なんとかがんばってみた。
「おいしい!」
コクのあるカレー風味のシチューみたいな味わい…。
チョコレートの味は、『言われてみればそれっぽいニオイがする』程度で、風味という表現が当てはまる。
普通の甘いチョコレートではなくカカオがたくさん含まれたダークだから、
想像していたようなキモさはなかった。
「これね、バターライスにかけるとおいしいのよ」
これからバターライス作んの!?…って思ってたら、リキさんは炊飯器をパカッと開けた。
「ん、いいカンジ♪」
ありゃ、いつのまにご飯を炊いてたんだ?
「バターライスのカンタンな作り方ね、顆粒状コンソメの素を入れて炊いてね、最後にバター混ぜるの」
そう言ってバターをポンと入れ、しゃもじでかき混ぜる。
なるほど、それはカンタンだ…。
ここで玄関のドアがガチャガチャと開く音が聴こえてきた、コウタさんだ、なんかすごいタイミングいい。
「おかえりなさぁーいっ!お疲れ様」
リキさんエプロン姿のまま玄関へパタパタと走ってく、まるで新婚の奥さんみたい…。
めっちゃ疲れた顔したコウタさんがリビングに入ってきたのをオープンキッチンごしに見た、そんなに忙しかったのかなぁ?
「いやー、参ったよ」
そう言って皮張りのソファーにドカッと座った。
「お疲れ様ねー、お茶でも飲む?」
「いやいい、すぐ飯にしてくれ」
コウタさんが着替えている間に盛りつけを手伝う。
リキさんはどこからかハートの形をしたケーキの型を出してきた。
「平たいお皿出してきてくれる?白地でフチがピンクのコ」
コウタさんは「ミニマリストを目指すんだ」と言いつつ、食器類にはこだわっていた(と言ってもブランド気にしてないって話だけど)
ビックリするくらいたくさん持っている。
私は白地でフチがピンクのお皿を探した。
――あった、これかな??――
見つけたはいいけど、一枚しかない…。
「リキさん…これですよね?一枚しかないんですけど?」
「いいのよ、それで。アタシたちのは、テキトーな平べったいお皿出してきてちょうだい」
コウタさんはだいたい食器をセットで持っているので、一枚だけってのは珍しい。
私たちのは、白いシンプルなお皿にした。
リキさんはすでにコウタさん用のピンクのフチのお皿にバターライスをハートに型どっていた。
「わあ、かわいい!」
思わず歓声をあげてしまう。
「こういう使い方もいいでしょ?」
リキさん、なんだか得意そう。
出来上がったボジョデモーレは、ライスの横に盛りつけられた。
ふと気づいたら、いつのまにかサラダが用意されていた、どうやら私をキッチンに呼ぶ前に作ってたっぽい。
「サラダもね、アボカドにサーモン入れてメキシコ風にしてみたのよ」
凝るなぁ…。
ダイニングテーブルに並べられたご馳走を見て、コウタさんは喜んだ。
「ご馳走だな、やっぱりメキシコか」
コウタさんとリキさんのなれそめを聞いたばっかだったんで、何だかハラハラ…。
過去をほじくり返してモメたりしないよね?
でもそれは考えすぎだったみたいで、美味しく夕食をいただくことができた。
「うまいなコレ」
コウタさんの食いつきがいい。
「でしょう?」
本来なら二人きりでラブラブなバレンタインデーのはずが、私がいるのがマジで申し訳なかった。
「ところでさ、だいぶお疲れのようだけど、なんかあった?」
リキさん、鼻にずり落ちたメガネを人差し指と中指で上げつつ訊いた、
彼がなにか改まって質問するときは大抵この仕草をするので、これはクセなんじゃないかって思う。
コウタさんはふぅっとため息をついてから話してくれた。
「実はさ…今日わざわざ閉めていた店舗を開けたのは、問い合わせがあったからなんだ」
輸入雑貨や食材を扱う店を経営しているコウタさん、現在は緊急事態宣言が解除されるまではオンラインストアのみの対応になっていた。
「うちで扱っているローズウォーターなんだが、ブルガリア産とイラン産があってな、両者の違いを嗅ぎわけた上でどちらかを買いたいってんで、開けたのさ」
「ええっ、たったそれだけで開店したの!?」
これには私も同じ意見だ、ローズウォーターを一本売るためだけにオープンするなんて…と思っていたら、
「いや…一本だけなら俺も開けなかったさ、一ダース買うってんで対応したのさ」
「いちダースぅ!?」
これにはリキさんも私も驚いて、同時に同じセリフを叫んでしまった。
「ああ…ケーキ屋かなんか経営してる人で、新商品開発で必要らしい…」
なるほどね…今はコロナのせいで、ほとんどの店が大変みたいだけど、お客さん呼ぶのに色々工夫こらしてるみたいだけど、
ここで新しい商品を考えるなんて勇気あるなと思った。
「でさぁ、店にやってきた経営者の顔見てすんげービビったわけよ、例の俺に手作りチョコスイーツのトラウマを植えつけたオンナだったから…」
このコウタさんの発言にリキさんは
「なんですってェェェェ!?」
目を剥いて叫んだ、トラウマってどんなことが起きたのだろう…?
「名前でわからなかったのー?」
「わかんねーよ、だいたい俺らの年齢になると結婚してるヤツもいるし、オンナは名字変わるだろ?下の名前もよくあるやつだったし、わかる訳ねーって…」
ここでコウタさん、頭抱え込んだ。
「ああああ、よりによって地雷チョコに入ってた香水もローズだったんだよな、フラッシュバックして固まっちまったよ…」
え…………チョコに香水って何……!?
そう思っていたら、リキさんが説明してくれた。
「コウタさんはね、中学のとき同級生の女の子からたくさんチョコをもらったんだけどね、その中のひとつに、薔薇の香水が入ったのがあったのよ。何でも恋が叶うってオマジナイだったらしいわよ」
えっ、おまじないって…。
「何ですか、ソレ?ヤバくないですか?だいたい溶かしたチョコに水分を一滴でもたらしたら、分離するんじゃ…」
実は初めて手作りチョコに挑戦したとき、
湯煎していたチョコにウッカリお湯が入って分離するという苦い思い出があり、
そんなチョコを本命に渡した…というのが、なかなか衝撃的だった。
「それだよ、それ!ソイツからもらったチョコだけ妙にカチカチに固くてよ〜、多分アレは冷凍庫でムリヤリ固めたんだろうな…当時の俺もさ、食い意地張ってたもんで食いついたら、前歯は欠けるわ・クソまじぃわで、最悪だったんだわ」
「えー、なにそれ、最悪じゃないですかー!」
歯が欠けるなんてヒドイ!と思ったけど、
そんなカチカチのヤバいチョコに食いついたコウタさんに呆れてしまった。
「もらったチョコ全部食うなんて、しなきゃ良かった…まさかあんなヤベェもん入ってるなんて、フツーじゃ考えらんないしさ」
そりゃそうだ。
「前橋2本差し歯なの、みんなソイツのせい。当時はまだ平成の始めで、治療費請求とか、そんなんなかったしなー」
「ホントひどい話よねぇ、それでそのオンナはコウタさんって気づいたの?」
「ああ、気づいたどころか、店主が俺ってわかっていて、これまでにも何度も注文してたらしい…昔のこと詫びたいとな」
なんとすごい神経の持ち主がいたもんだとビックリした、普通自分のせいで相手の歯が欠けてしまったなら、こちらから連絡なんて出来なさそうなのに…(いや、そもそもそれ以前の問題かな)
「うわっ、なんかヤバそーなオンナね」
リキさんも引いている。
「ローズウォーターを買うついでにあの時の治療費を払わせてくれと、わざわざ来店したんだよ…もちろん、事前メールではそんなこと書いてなかったけどな」
ああ、きっとコウタさんのことだから、治療費はいらないと断ったのだろうな…。
「それでだいぶモメて時間食っちまった…その間、店オープンしてたこと公表してないのに、他の客は来ちまうし…」
「結局お金は受け取ったの?」
「いんや…だいぶ昔のことな上に治療費払ったの親だから金額知らねーし、第一関わりたくなかったから…ああ、なのに、店のこと知られちまってるから、逃げらんねーし…結局目的のローズウォーター買ってお帰り頂いたけど、新作のパンできたら送るとさ…」
「あら、良かったじゃない」
「よくねーよ!ナニ入れられるか、わかったもんじゃねーわ!」
さすがにそれは病んでない限りないないんじゃないですか?と言いたかったけど、
世の中なにがあるかわからないからなにも言えなかった。
「とにかく今後新作パン送りつけられても、俺は絶対に食わないからな」
そりゃあ、そうなるだろうな…。
今日一日でコウタさんのトラウマにリキさんとのなれそめを知ることができるとは思わなかった、なかなか濃ゆい人生だなぁ…と思ったけど、まだまだ序の口だとこの時は思いもよらなかった。
後片付けを終えて、いつものように今日覚えたレシピを書き留める。
ボジョデモーレ、メキシコのチキンチョコレート煮込み。
材料は、鶏肉2枚分、カカオ含有率の高いチョコレート50g、赤ワイン100cc、トマトの缶詰め一缶、タマネギ1/2個、ニンニク2粒、アーモンド20粒くらい、カレンズ(またはレーズン)大さじ1、塩コショウ、オリーブオイル、ナツメグ・シナモン・コリアンダー・クローブ・チリパウダー各小さじ1/2
作り方は、まず鶏肉を食べやすい大きさにして全体にフォークで穴を開け、塩コショウすりこむ。
タマネギとニンニクは薄くスライスし、
アーモンドとレーズンは細かく切っておく(レーズンではなくカレンズがあれば、切らなくてよい)
鍋にオリーブオイル熱してチキンを皮から焼いてひっくり返してフタをし、
弱火で5分くらい火を通す。
チキンが焼けたら一度取り出してバットに乗せておき、同じ鍋でニンニクとタマネギを炒める。
しんなりしてきたら、アーモンドにカレンズ(またはレーズン)、スパイスを入れて炒め、赤ワインを分量の半分入れて煮込む。
ひと煮立ちしたら、焼いたチキンとトマト缶を入れる。残りの赤ワインをトマト缶に入れて残りをかきだす。
30分煮込んだらチョコレートを入れ、
塩コショウで味付けをして出来上がり。
今日も美味しくいただきました、
ごちそうさまでした。
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