小話【スノウリリィ三分クッキング】
「皆さんこんにちは、スノウリリィ・ハイアットです」
銀髪ポンコツメイドことスノウリリィ・ハイアットが、カメラ目線で綺麗な笑顔を作る。
「本日はハムエッグを作っていきたいと思います。よろしくお願いしますね」
そう言った彼女は、材料が記載されたフリップをどこからか取り出す。
フリップには綺麗な文字が並んでいて、きちんと材料が書かれていた。
・玉子
・ハム
・やる気
・根気
・度胸
・☆△○×?!
――後半へ進むにつれて料理の材料ではなくなっているし、そもそも最後の記号でしか表現されていない材料は果たして何なのか。
「それではまず、フライパンに油を引いていきます」
フリップを放り投げて片付けたスノウリリィは、慣れた手つきでフライパンに油を引いていく。
油を引いたフライパンを火にかければ、パチパチと油が弾けるいい音が聞こえてきた。
手出しは順調である。あとそろそろ記号でしか表現されていない材料の正体について教えてほしい。
「続いてハムを乗せて、玉子を落とします」
スノウリリィは油が弾けるフライパンにハムを乗せて、その上に玉子を落とした。
熱されたフライパンによって玉子がすぐに色を変え、美味しそうな目玉焼きになる。あとはお好みの硬さになるまで火を通して完成だ。
まだこの時点では食材である。まだ食べられるものだ。というか、余計なひと手間を加えずにそのまま提供してほしい。
「ここでフライパンに蓋をして」
スノウリリィはフライパンに蓋をすると、
「お祈りをします」
両手を胸の前で組んでお祈りをし始めた。
さすが元修道女である。食べ物の恵みに感謝するのは当然のことだ。
お祈りを捧げる程度であれば、目を離しても焦げるぐらいの被害で済みそうだ。うん、まだ許容範囲。
お祈りを終えたスノウリリィは、
「さて、ハムエッグの完成です」
フライパンの蓋を開けて、真っ白な皿に完成したハムエッグを移した。
紫色だった。
あとついでに、半固形だった。
ドロッとした何かが真っ白な皿の上に乗せられ、モゾモゾと皿の上を蠢いている。かすかに「あああああああ」と奇声のようなものが聞こえてくる。
何かのバグが起きたのだろうか? 脳味噌がおかしくなったのだろうか?
叫び声を上げる紫色の何かを皿ごと持ち上げて、スノウリリィはとある人物に提供する。
「さあ、召し上がれ」
「――ますかぁ!! 何ですかこれ!?」
「きゃあ!?」
未知なるハムエッグを提供されたゲームルバーク二大悪党のユーシア・レゾナントールとリヴ・オーリオは、とうとう耐えきれなかった。
スノウリリィが持つ皿をムーンサルトで蹴飛ばしたリヴ。
蹴飛ばされた皿はベチャッと壁に叩きつけられて、何故か「むぎゅッ」と異音が聞こえてきた。食べ物が喋るか、普通。
「な、何をするんですか!?」
「何をするんですか、はこっちの台詞ですよ!? アンタは何を食わせようとしてんですか!!」
リヴは相棒のユーシアを指で示し、
「シア先輩を見てください、もはや強姦された女の子みたいにガクガクじゃないですか!! 目には夢も希望もありませんよ!?」
リヴと一緒にお行儀よく椅子に座っていたはずのユーシアだが、スノウリリィの料理が完成した途端、正気度がゴリッと盛大に削れた。
気分は不定の狂気状態である。アイディアを振っても彼を救えない。もうダメだ。
しかし、スノウリリィは自分の料理の腕前が『ちょっと下手』であると信じて疑わない。ちょっとどころではないのだ、もう色々とやべえのだ。
「お祈りを捧げた瞬間にどうにかなったじゃないですか!! アンタが信仰しているのは邪神ですか!?」
「リヴさんの好きな『いあいあはすたぁ』系ではありませんよ!!」
「じゃあ何ですか、クトゥルフですか? アザトースでも信仰してますか? 僕らは探索者になるつもりはねえんですよ!!」
「リヴさんの言っていることが分かりません!!」
リヴとスノウリリィの激しい口論が繰り広げられる側で、ユーシアとネアは壁に叩きつけられて潰れた紫色の何かを観察する。
普通なら皿は落ちて割れるはずなのに、何故か張り付いたままだ。紫色の何かが糊のような働きをしているのだろうか。
だとしても、これは食べたらまずい。だって壁を徐々に溶かしていっているし。
「……ネアちゃん」
「なぁに、おにーちゃん」
死んだ魚のような目で紫色の何かを見つめるユーシアは、
「コンビニ行こっか。アイス買ってあげる」
「わぁい」
今はこんな劇物から目を逸らした方がいい、その方が現実的だ。
ユーシアは純粋無垢な少女を連れてコンビニに行くことにした。
ちょっとやはりスノウリリィの料理は感覚がおかしい。
これにてスノウリリィの三分クッキングは終了である。
次回予定? 君は死にたいのかね?
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