【お昼休み】
さて、待ちに待った昼休みである。
四時間目の体育ですでに限界まで腹が減っているので、ユーシアは着替えて自分の教室に向かう。そして自分の鞄を引っ掴むと、二年生の教室まで急いだ。
階段で一つ下のフロアに降りれば、昼休みという自由時間を目一杯楽しむ後輩たちの声が聞こえてくる。
他クラスと会話しながら弁当を広げる女子生徒や、自動販売機で購入したパックジュースを片手にゲームをする男子生徒など、彼らは彼らの時間を過ごしている様子だ。
「リヴ君、来たよ」
「シア先輩、さっきぶりですね」
「うん、さっきぶり」
体育の時間に乱入してきたリヴが、自分のクラスメイトと取っ組み合いをし始めた時は腹を抱えて笑ってしまったほどだ。
ついでにあのスカしたサッカー部の野郎どもをボコボコにしていたので、本当に心の底から面白かった。「グッジョブ」と何度も言ってしまった。
周囲のクラスメイトを威嚇していたらしいリヴは、ユーシアが教室に顔を出した瞬間にパッと立ち上がる。
こうして見ると、やはりリヴは可愛い後輩だ。
多少、過激な部分はあるがいつものことだと笑い流せる。
「今日はどこで食べる?」
「体育館の裏ではどうですか? 野良猫がいるんですよ」
「リヴ君に似てる?」
「どちらかと言えば、そこの馬鹿に似てますね」
「誰が馬鹿ですかッ!!」
ちょうど出てきたスノウリリィが、リヴに向かって叫ぶ。
「馬鹿ですよ。定期テストも下から数えた方が早いですし」
「い、言い返せないのが悔しい……!!」
ぐぎぎ、と歯軋りをするスノウリリィだが、背後から聞こえてきた「りりぃちゃーん」という呼び声に振り返る。
二年生の野郎どもが注目する中、廊下をニコニコと笑顔で走ってくる美少女が一人。
綺麗な金髪を
一年のネア・ムーンリバーである。このゲームルバーク学園のマドンナと名高い女子生徒だ。
「おべんと、たべよ」
「はい、いいですよ。今日は中庭に行きましょうか?」
「ううん、たいいくかんうら」
ネアはニッコニコの笑顔で言い、
「ねこさんがいるの。ねあ、ねこさんみたい」
スノウリリィの制服の袖を摘んで、ネアはお願いする。
いつもなら「いいですよ」と即答するのだが、スノウリリィは答えることが出来なかった。
理由は簡単だ。先程、ユーシアとリヴも体育館裏で昼食を取るかと話していたのだ。問題児の二人と一緒に昼食を取りたくない、という気持ちでも働いているのだろうか。
口元を引き攣らせるスノウリリィの間に割り込んで、ユーシアとリヴは言う。
「体育館裏ですか? 僕たちも体育館裏に行こうかと話していたんですよ」
「よかったら一緒にどう?」
「おにーちゃん、りっちゃん!! ――あ」
ネアは瞳を輝かせてユーシアとリヴを呼ぶが、慌てて自分の口を手で塞ぐ。
彼女は何故かユーシアを『おにーちゃん』と、リヴを『りっちゃん』と呼ぶのだ。少々特殊な呼び方なので、周囲の生徒からの反感を買うのだ。
まあ買ったところでユーシアとリヴなら相手をボコボコにしてしまうので、どう呼ばれようが気にしないのだが。
「別に呼び方なんて何でもいいよ」
「そうですよ。僕たちは気にしませんので」
「……ん、ありがと」
花が咲くような笑みを見せるネアを前に、リヴが心臓を押さえて「ヴッ」と呻いた。どうやら彼女の持つ光属性と可愛さにやられたようだ。
相棒が致命傷を負う横で、ユーシアは平然と立っていられた。
だって同じような光属性で可愛い義妹がいるのだから、ネアの可愛さにも慣れたものである。
「じゃあ行こうか。昼休みが終わっちゃうからね」
「はぁい」
「シア先輩、僕お腹いっぱいです……」
「じゃあお前さんの分のお弁当は俺が食べるね」
「やっぱり食べます。止めてください」
「どっちなのよ、本当に」
「――皆さん、私のことを置いていかないでください!!」
先に行く三人を追いかけるように、スノウリリィは駆け出した。
☆
ピピピピ、というアラームの音が客室内に響き渡る。
ぼんやりと瞼を開けば、見慣れない壁が目の前にあった。
そう言えば、メロウホテルに宿泊していたのだった。今までのアレは夢だったのか。
枕元に放置した携帯を手探りで引き寄せ、画面上に表示されたアラームを止める。「ふあぁ……」と大欠伸を漏らし、二度寝を決め込もうとしたユーシアは、自分の胸元の辺りに何かがいることに気づく。
「すー……すー……」
規則正しい寝息を漏らす、やや寝癖が目立つ黒髪の青年がいた。
彼はピッタリとユーシアに張り付き、胸板に額を寄せていまだ眠り続けている。あれだけ喧しいアラーム音でも起きないとは、彼の眠りは深いのだろうか。
というか、何故リヴがこんな近くにいるのだろうか。寝る前までは一悶着あって、自分の異能力を使って眠りの世界へ強制的に旅立たせたのだが。
「……リヴ君って寝相が悪いのかなぁ」
ポツリと呟いたユーシアは、欠伸をして眠るリヴを抱き寄せる。
別に他意がある訳ではない。
意外とリヴの体温が心地よくて、このままもう一眠りする予定だからだ。
相棒の青年を抱きかかえたまま、ユーシアは再び瞼を閉じる。
もうあの学園の夢を見ることはなかったのは、少しだけ残念に思えた。
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