第四章 鼓動は続く
真実
ずっと目を逸らしていた。
立ち向かうわけでもなく、背中を向けて逃げるわけでもなく、ただただ目を逸らすばかりで行動しようとはしなかった。
帰還を望むくせに何もかもを曖昧なままに保ち続けようとし。直視することが嫌で嫌で堪らなく、心の底に埋め込んで掘り出せないように守っていた。どれだけ自分が愚かなのか、痛いほどに分かる。
だから余計に行動を起こさなかった。痛みは消えずに身体中を蝕むのに、馬鹿馬鹿しく同じ場所に突っ立って被害者面をする。
その顔はきっとアホ面だ。被害者面だって? ひとつも笑えない。
本当はなんだって良い。行動するべきだった。誰かに言われるのを待たず、いの一番に己が動き出すべきだった。
逃げ出しって構わなかった。咎める人はここにはいない。彼女に一言いうだけで、何もかもが完結し、俺は彼女たちとの関わりが薄いまま元の場所へと戻れたはずなのだ。
選ばなかったのは自己責任。独白したって無駄だ。その事実は変わらない。
目の前に手を差し伸べる人がいたのに。絶望から救ってくれる人がいたのに。信じることができずにいた。彼女たちを心中で敵だと認識することによって自己を保っていた。
心に厚い壁を構築し、深層心理に全てを埋め、自分ですら気づけないように仕組んだ。
なんて馬鹿だ。大間抜けだ!
いくら頭を下げたところで許されない。
彼女たちならば簡単に許してくれるのだろうが、許せないのは何よりも俺自身だ。自分が自分を許せないのだ。情けなくて、しょうもなくて、自傷さえしたくなる。
贖い。償い。罪滅ぼし。
本当に自分が嫌いだ。
どうしてこんな人間に生きることが許される。空気を吸うだけでも大罪だというのに。
いっそのこと断罪されれば楽になれる。人思いに突き放してくれれば良いのに。
なぜ慈悲を向ける。
どうしてそんなに平気でいられる。
俺はそんな人間じゃない。
優しくしないでくれ。微笑まないでくれ。
俺にそんな資格はない。みんなと談笑することは罪悪なんだ。
種明かし。答え合わせ。事の全容。件の全景。
いくら言葉を綴っても、そこには七海敬斗の愚昧さが現れるだけ。
不軍の召喚士が手を差し伸べる理由。
白波の人魚が嘘をついた理由。
混血の吸血鬼が気遣う理由。
慧眼な機人が慮る理由。
無垢な獣人が秘密を守る理由。
聡明な魔女が微笑みかける理由。
愚昧な男が目を逸らし続けた事実。
誰か、神様でも妖精でもいいから誰かこれを見ている人がいるのであれば。
どうか、俺を軽蔑してほしい。
許さないまま、許されないまま、許せないまま、鼓動は続く。
それが生き永らえた、俺の重荷だ。
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