裁判開廷

「開廷」アリシアが慣れない様子で言った。

 はっきり言って今の状況がさっぱりわからない。食堂の椅子に座り事が終わるのを待っている。誰がやろうと言い出したのかはともかく、現在ごっこ遊びのようなカオスが繰り広げられていた。

「それではまず人定質問です。出身、氏名、使役する召喚士、職業をお答えください」

 そう言ったのはミィリィさんだ。凛々しい佇まいで座るアリシアの横に立っている。

「霊界出身、聡明叡智たる魔女メレスウィアルの弟子にして一片氷心たる魔女ルーナです。不群の召喚士アリシアの従者です。職業は魔法の研究者です」

 傍聴席で見ている俺からすれば茶番以外の何者でもない。愉快にも程がある面々だ。

 罪状認否。

「被告人は本日午前、七海敬斗とまりしろが研究所から去った後、霊界の妖精グレムリン十七体を誤って解き放ったものである」

「間違いありません」ルーナが下を向いたまま認めた。

 その後、冒頭陳述と検察側の立証、論告弁論が行われた。検察側はナナ、弁護人はシャウラだった。変態吸血夢魔はそもそも裁判についての知識を良く理解してない様子で、「あー、まーテキトーでいーんじゃない?」「ナナに賛成!」と無茶苦茶な発言を繰り返していた。唯一頼れる存在にぞんざいに扱われてルーナは四面楚歌だった。当人もそれは深く理解していて、表情からは絶望が汲み取れた。

 傍聴席に着いている俺の隣にはまりしろが浅く座っていて、虚ろな眼でやり取りを眺めてはあくびをしたり、眼を擦ったりしていた。既に日は落ちている。子どもであることも起因して起きているのが辛くなっているのだ。ナナの容赦のない猛攻とミィリィさんの冷徹な瞳、シャウラの自棄的な発言で空気中にはカオス9割、窒素0.7割、酸素0.2割が占めていた。混沌を見ながらアリシアは苦笑していた。俺はひたすら無言を貫くしかなかった。

 しばらくして、ミィリィさんが場に静寂をもたらした。恐らくこの家で一番偉いように思える人物だ。見た目も最も知的で高尚で美麗でザ・ビューティフルだ。喧騒はすぐに止んだ。

「これで審理を終えますが、最後に何か言いたい事はありますか?」

「そのぉ、グレムリンよって今回酷いこと、になったわけですけれどー、実際あの、なんと言いますか、ナナが趣味でめちゃつよなロボを作り過ぎているっていう点を考慮したらどうも話は変わってくると言いますか、えーと、ナナにも少しばかしの非」

 言い訳がましいにも程がある。お前反省してるのか。ミィリィさんは詭弁の最中微動だにしなかった。眼光鋭い威圧に負けてルーナはこれ以上の言い訳ができなくなった。

「言いたい事はありますか」

「いえ、ないです。うぅ……」

 ルーナは半ば強制的に黙らされてしまった。もはや裁判のさの字もない。

「それでは判決を言い渡します。アリシア様」

「ぎるてぃー」

 アリシアは素っ気なく言ったつもりのようだがどうも間抜けに見えてしまった。

 ところで、なんだよこの茶番。

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