空中戦闘

 まりしろと合流すると大慌てで図書室の頑丈な扉を開けて中へ入った。扉は閉めるのも一苦労で悠長にしている隙にロボ一機の侵入を許した。気絶したシャウラを子猫に任せると俺はロボと対峙する。

 この屋敷の図書室は一階から四階まで吹き抜けになっていて、眺めると首が痛む。本棟と合体した円柱型の構造をしていて、各界の壁には本棚が隙間無く敷き詰められている。そんな状況で一階のフロア中心部にてロボに身構える。

 問題はどのタイミングで飛び掛かるかだった。相手が攻撃を仕掛けてくるのはピピピピピ! と電子音がなった後なので分かり易い。その隙に間合いを詰め両手で動きを封じよう。

 電子音がなったと同時に俺は動いた。銃口から射線を逸らして捕らえる。ロボの発砲は壁に意味無く浴びせられた。俺は一連の戦闘からある事に勘付いていた。ロボットクリーナーには取り外し可能なパーツが有り、それを外せば内部が見える。いくら高度文明でも精密機械。コードだの部品だのを引っこ抜けば簡単に壊れる。だから俺はそれを狙う。

 カバーを外すことに成功するがロボが激しく抵抗した。不可解に飛行して腕を振り落とすつもりか。疲労に耐えながら破壊を試みるが、次にロボは高く舞い上がる行動に出た。今破壊すれば俺は四階から落ちる事になる。

「無機物のくせに!」

 だが俺は覚悟を決めてコードを強引に引っこ抜いた。自立できなくなったロボはそのまま落下する。俺は咄嗟に飛び退いて三階フロアの落下防止柵を握った。汗で滑り手が離れた。

「うわっ!」

 今度こそ死を覚悟した。でも諦めるのは良くない。そんなこと誰でも分かる。だから俺は抗い手を伸ばす。すると二階の手すりを掴み取った。衝撃で腕が千切れそうに感じた。下を見ればロボがボロボロになって墜落していた。俺は二階の床に立つ。

「はあ、死ぬかと思った」


 ○


 階段で一階のフロア中心部へ戻ると墜落した場所に近づいてロボを注視した。ロボが暴走をし始め三階の奥部屋へと立て籠もった時から、俺はある仮説を立てていた。証拠もなければ根拠もない穴だらけの説ではあったが、俺はどうもそれが真実ではないかと考えていた。だから事実を確かめるためにロボを見下ろす。

 そしてある物を見て確信した。小さな青い奴。

「やっぱりか」

「けいと大丈夫だった?」

 駆け足でまりしろが言った。

「ああ、なんとかな。意外と俺もやるだろ?」

 ニカッと笑みを浮かべて、まりしろは大きく頷いた。シャウラの様子はどうだろうか。俺は扉近くに倒れたままの吸血鬼の元へ歩く。幸い身体を揺さぶるとすぐに目を覚ました。

「う、う〜ん。……あれ、ロボは」

 状況説明。

「そう。じゃあナナも、そろそろ決着がついている頃かな」

「たぶんな。ちょうど俺も事件の犯人が分かったところだ」

「え、だれだれ?」興味津々の子猫。

 俺が種明かしを試みたところで不意に図書室の扉に大きな力が加わった。強く叩く音が響く。

「またぁ!?」シャウラも慌てて起き上がる。

 三人で扉に対して構えていると勢い良く重厚なドアが開かれた。飛び掛かろうとしたがそれがロボットクリーナーではないことは直ちに理解した。

 それはナナのドローンだった。球形の機体には「マックス」と文字が描かれている。のちに知るが、ナナは全八機のドローンに名前を付けて可愛がっているのだという。

「《ペレグリン》の暴走を停止しました。それから原因も判明しました」

 ドローンからナナの声がした。スピーカー機能が付いていて、外にいるナナと通信が出来るのだ。

「ああ俺もだ。それじゃあ、犯人逮捕にでも行くか」

 吹き抜けの天井には窓が付いていて外の光が差し込んでいる。日光はオレンジ色をしていて影が長く伸びていた。そろそろ日が沈む頃か。全く、充実し過ぎた一日だ。

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