エンジニアのお仕事
ナナは技術者である。
中心界で生活を営んでいる機人や機獣の機体、家庭用ロボット、乗り物など様々な機械を扱う技能を所有している。機械に対する基礎的な知識はもちろん、応用的な技術や未だ確立されていない前衛的な技術開発に携わる力がある。
そのため彼女、NS—M7《ブレイクスルー》はその能力を生かす職業、修理屋を生業としていた。
顧客から依頼を受け機械を預かり不具合や欠陥を修復する。定期的なメンテナンスも請け負っている。
職場はこの屋敷だ。ナナはルーナのように屋敷内に常駐している人物の一人である。
ずっと家にいるのは退屈らしい。入り込んでくる依頼も困難ではなく、機械を効率良く修理する仕組みを自作することによって仕事能力の大きな向上も得られている。自身が動く必要はあまりないそうだ。ルーナのように果ての見えない研究職とは違う。修理には始める前から終わりが見えている。至って単純な仕事だ。だから時間を持て余す。ナナはその合間を縫って機体の作成に耽るのだ。よってナナの趣味はロボット製作である。
趣味で作ったものの一つにロボットクリーナーがある。
円盤状のロボットクリーナーは屋敷の各所に配備されている。
どこにいてもまず目に付いて、やはり高性能であると感嘆させられるのだから面白い。
機能は人界のお掃除ロボットを遥かに凌いでいる。床の清掃。壁の清掃。棚上の清掃。人界のロボットクリーナーでは掃除が難しいであろう隅や隙間、くぼみなどもくまなく綺麗にしてくれる。人界のお掃除ロボットでさえ凄い技術であるなあと驚愕の意を抱く俺からすれば、これは高性能どころか、超高性能すら超えているようだ。
あのロボットクリーナーは空を飛ぶ。だから部屋の隅から隅まで掃除ができる。おまけにロボットクリーナーにはいつくかの種類があり、それぞれ用途が違っている。室内用。浴場用。庭用。など様々な形態がある。
庭用のものは室内用のものと比較して大型である。こなせる仕事は落ち葉掃きや花壇の手入れ、伸び過ぎた枝の伐採。俺の家にも一台欲しい。
屋根に登ったまりしろがナナを発見したので近づいてみると、ナナは作業をしていた。
ナナがいたのは敷地内にある庭だった。
綺麗に手入れされた植物が並んでいる。美しくて心が安らぐ。花壇には色とりどりの花が咲いている。見たことのない種類の花に興味をそそられた。風に運ばれて独特な匂いが鼻を刺激した。その香りはやはり初めて嗅いだものだった。人界にある何かで無理やり例えることも出来るだろうが、結局は知らない香りである。近くには水が流れており、木々の緑が相まってとても涼しい。
ナナに声をかけた。ロボットに不具合があるのだという。
「簡単に直りそうなのか?」
「どうでしょう。不具合が見られるには見られるのですが、具体的にどこに問題があるのか分からないのです」
ナナからは困った様子が見て取れる。
「機体には一切の異常が見られず、システムにも不備が見当たりません。しかし動作にだけ不具合があるのです」
こんなことは滅多に起こらないのそうだ。ナナは技術者として能力に長けている。そんな人物でも原因が分からないとなると、俺にどうにか出来るとは思わない。
「ナナならすぐに直せちゃうでしょ」
「いえ、そうは言いましても今回ばかりは謎なのです。希代不思議です」
「結構深刻なんだな。けど、屋敷にはいくつもあるんだから治らなくたって新しいものを導入すれば済む話だろう?」
それを聞いたナナは少し曇った表情を見せた。
「ですが修理できるに越したことはないでしょう。もったい無いような気がします。それにロボットクリーナーもタダではありません。事実機械の作成費が掛かりに掛かりこの家の財産に影響を及ぼして仕舞いには……」
なるほど、相当な理由があってのことらしい。正論だ。
「以前暇を持て余していた時、見た目を限りなく重視した機体を作ろうと思い立ったのですが、これも違うあれも違うと試行している内に費用がえらく掛かっていることに気がついたのです。その際ミィリィから相当なお叱りを受けまして。あれは壮絶でした。少しの間差し押さえを受けました。以降恐ろしくて新作が作れずにいるのです」
「何してんだお前」
「そのあと何とかして立て直しましたが」
趣味はほどほどにということだ。
「あの時はしっそな生活だったね」
「現時点では原因不明ですが、精密に調査すれば特定できるはずです。なので私はこれから自室に行くことにします。この庭にいては出来ないでしょうし」
そこで俺は興味が湧いた。
ナナは技術者として普段どんな作業をしているか実際に見てみたいと思った。
俺の心にあったのはフィクション作品のロボットについてのことだ。SF映画。アニメ作品。アメコミヒーロー。どれも良い。ロボットは良い。皆一様にカッコ良い。
俺はナナに作業の様子を見学させてはくれないかと頼み込んだ。どうせやがては人界に帰るのだ。ここでしか味わえないものは出来る限り味わっておくのが得策だ。持ち帰って話のネタにでもしよう。
ナナの返答はイエスだった。
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