証拠を見せろ

 小さなお嬢さんとメイドさんからあの後いろいろなことを説明されたが、どれもこれも俺の当初想像していた筋書きとは異なっていた。

 事態は深刻さを極める。

 一通り話を聞き、質問していたらいつの間にか日が暮れていた。

「ダウト」

「嘘じゃないって!」

「いいや、嘘だ。けどな、別に嘘をつくことが悪いだなんて思ってはいない。嘘を、あたかも本当であるように発言することが良くないって考えてるんだ。まあさすがにこの場合は、子どもの浅はかな知恵として、言葉の真意は判断がつくけど」

「だから本当なの! ここは、中心界で! ケイトは、召喚士の私が! 召喚した! っていうか私子どもじゃないし」

「とても強情なかたですね」

 ムキィィーー! と必死に訴える召喚士の横で、ミィリィさんは冷静に言ってのけるのである。冷静沈着かつ鷹揚自若かつ怜悧で磐石なミィリィさんは、やはりただならぬ気配を感じさせた。あまりに実体が掴めなすぎる。

「これを信じてくれないとこの先が話せないんだけど」

「つまり穴だらけな作り話だったってわけだ」

「だから本当なんだって!」

「うん、わかるわかる。俺も小さい頃は、妹が産まれてからというもの、親にあんまり構ってもらえなくなったんだよ。それで気を惹こうと、あることないこと言ってみたりしてな」

「…………」

「動かざること山の如しですね」

「あーもう!」

 この時の俺がなにうえ強情なまでに少女の発言を執拗に拒んでいるのかといえば、それはきっと、あまり自分の身に起こって欲しくはないことだったからだと言える。

 この状況をアトラクションとして嗜む分には構わないのだが、実際に体験してみると、いかんせん喜ばしくは感じられない現状がある。

「それじゃあもう、仕方がありませんね」

 俺が異常なまでに現実を受け入れないことにとうとうミィリィさんは心折れたらしく、別のアプローチを図ってきた。

 アイデアを与えるような形で、ミィリィさんは召喚士に言った。

「ケイトさんの元いた世界って、夜になると夜空に一つの月が輝くらしいですね」

「おおっ、それの手があったか。ミィナイス!」

 それを聞いた召喚士はなにかに気づいた様子で、ふむふむと小さく言った後椅子から立ち上がった。

「よしじゃあケイト、ちょっとこっちに来て」

 召喚士はそうやって手招きをする。もちろん俺としては、騙せるものなら騙してみやがれと言わんばかりに、堂々とした態度で接近していく。

「よいしょっと」

 召喚士は重々しいガラスの張った窓を開いた。すると気持ちの良い夜風が吹いて、召喚士の艶やかな髪がゆらゆらとなびいた。少しの肌寒さを感じて、俺の身体は少し強張る。

「ほら、これが決定的な証拠。ここは紛れもなく中心界」

 少女が天高く突き上げる指の先を見て言葉を失った。召喚士の発言を事実として認め、自らの主張を誤りであったと訂正しなくてはならなかった。このような光景を前に、誰が嘘だと騙れるだろうか。人間誰しも、自分の見ているものが幻想であることなんて疑うはずかないのだから。

「六つも月があるのは、さすがに中心界だけでしょ?」

「Oh,My Gad(ネイティヴ風)」

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