35話 急襲

 信也しんや大護だいごを部屋に残し、かなめを探しに階段を駆け降りる。

 幸いにも居間に向かう途中でかなめを見つけることができた。


信也しんやくん、すごい音がしたけど大丈夫?」


「とりあえず詳しい話は後だ!逃げるぞ!」

 信也しんやは状況が飲み込めず呆気に取られているかなめかかえ、台所横の勝手口から飛び出した。


 信也しんやの自宅周辺は夜中ということもあり相変わらず人通りが少ない。街灯もまばらで周辺の田畑を暗闇が包んでいた。


 信也しんやは逃げることだけを目的に自宅から離れようとかなめを抱えたままひらすらに走る。


「止まりなさい!」

 数百メートルほど進んだところで高圧的な女性の声が信也しんやたちを制す。


 目の前には迷彩柄の軍服らしき格好の女性と数名の兵士が軽機関銃を構えて、信也しんやかなめへ銃口を向けていた。


「お前が生司馬いくしま信也しんやだな。規律違反者、生司馬いくしま大護だいごの共謀者として身柄を拘束する!その娘も一緒に捕らえろ!」


「おい!待てよこの子は関係無いだろ」


信也しんやくん…いったい何がどうなってるの」

 かなめは突然の出来事に驚き信也しんや腕の中で震えている。


 そんなことはお構い無しといった様子でら部隊のリーダー格の女性は信也しんやたちを威嚇する。

「関係あるかないかを判断するのは貴様ではない、我々だ。抵抗すれば射殺する!」


「ここは日本だろ。こんな往来で射殺?ホンキかよ!」


 信也しんやは我ながら馬鹿な質問をしたと思った。先程、自身の部屋を蜂の巣にしたことを鑑みれば、相手が場所など関係なく問答無用で発砲してくる輩なのは間違いない。


 信也しんやは抱き抱えているかなめに小声で指示を出す。

かなめちゃん…下に降ろしたら走って逃げて」


「でも…信也しんやくんはどうするの?私、信也しんやくんを置いて逃げるなんて嫌だよ」


「わかった。それならすぐそばの側溝にでも隠れてて弾が当たらないようにかがんでろ!」


「貴様ら何をコソコソと…無駄な抵抗は止めて投降しなさい!」

 リーダー格の女は所持していた軽機関銃の引き金に手をかける。


かなめちゃん逃げて!」

 信也しんやはタイミングを見計らいかなめを後方へと逃がす。


「止まれ!撃て!」

 リーダー格の女の合図と共に他の兵士も発砲した。


朝霧あさぎり

 かなめに流れ弾が当たらないように、

 信也しんや干渉力かんしょうりょくで周囲に薄いきり散布さんぷする。

 放たれた銃弾はきりに阻まれ消失した。


「やっぱり、ただの銃弾じゃないな」

 弾は霧に衝突した時点で掻き消えた。


 この2年間、信也しんやには時間がたっぷりとあった。

 もう自分や周りの人間が傷つかなくていいように、護るための干渉力かんしょうりょくをイメージする時間が。


 弾道は目で見て反応できるものではない。 信也しんやは事前の防御を徹底した。


 かなめが側溝に無事に隠れた事を確認して信也しんやは迎撃体勢に入る。


「バカな!この銃弾は対象の干渉力かんしょうりょくを奪って威力が増すというのに…止められる筈が…」


「ご丁寧に説明してくれるんだな」


「くそっ…とにかく標的の干渉力かんしょうりょくが尽きるまで撃ちまくれ!」


 信也しんやは霧で銃弾を防ぎながら発泡する兵士に正面から突っ込んでいく。


 手早く取り巻きの兵士を殴り倒し気絶させる。

 何発か防ぎきれずに信也しんやの体に直接もらってしまう。信也しんやは銃弾の痛みに耐えながらも応戦し続けた。

 

 痛みを感じる理由が、自身を覆っている干渉力かんしょうりょくの鎧が弱まっているのか、銃弾の性能が優れているからなのか信也しんやは判断がつかずにいる。


 気付けばリーダー格の女以外は地面にしていた。


「あとはアンタだけなんだけど…女を殴るのには少し抵抗がある…退いてはくれないか」


「くそっ!女とバカにされ引き下がる訳にはいかない。ここ周囲に私が結界を張っている。私を殺さない限り結界を破れないぞ。私の相手をしている間に隊長が駆けつければ貴様らは終わりだ」


「さっきからペラペラ説明しすぎだろ?そんなにすごい結界をあんたが張っているなら、あんた自身は身を潜め、その隊長とやらの合流を優先すべきだろ。そうしないって事は破られる可能性があるんじゃないのか?」


「くっ、貴様…!」

 リーダー格の女は図星だったのか顔が真っ赤になり激昂げっこうする。


「なんだ信也しんや…まだ手こずっていたのかい?」

 突然、暗闇から現れた大護だいごが自然な流れで会話へ参加してきた。


「なんだと!?何故貴様がここに…隊長が処理にむかったはず」


「大丈夫だよ。君もすぐに隊長さんの元へ送ってあげるから」

 大護だいごは残忍な笑みを浮かべながらリーダー格の女に詰め寄る。


「ひっ…」

 女は恐怖に呑まれ顔をひきつらせていた。


“フラストレート・フィアー”

 リーダー格の女の胸あたりに下向きの青い矢印が浮かびあがった。直後、女は泡を吹いて倒れる。


「おいっ、いったいなにを!」

 信也しんや大護だいごが女を殺してしたのではないかと詰め寄る。


「別に殺してはいないよ。彼女の恐怖心をあおってそれを増幅させただけだよ。心が恐怖に耐えきれなくなり気絶したのさ」

  

「まったく、陰湿いんしつ干渉力ちからだな」

 この干渉力かんしょうりょくはS高校でくろを暴走させたものと酷似こくじしている。

 その事に言及しようか悩んでいた信也しんやであったが、大護だいごを問いただすのは安全なところに逃げてからと言葉を飲み込む。


かなめちゃん、終わったよ」

 かなめは恐る恐る隠れていた側溝から頭をだし、信也しんやの方を見やる。


「とりあえず逃げるよ。私を本気で殺す気なら機関がこの程度の兵士を寄越す訳がない。裏があるか、増援が来るまでの足止めかのどちらかだ」


「わかった。とりあえずかなめちゃんは家 に帰って…」

そこまで信也しんやが口出したところで、大護だいごが制す。


「まて、だからキミは愚息なのだよ。この子も連れていく。信也しんや、キミを監視していた奴らが同居しているかなめさんの情報など調べ尽くしているよ。ここのまま家に帰ったら拘束されるよ」


 信也しんやは安直な考えを指摘されムッとする。

「それで、どうやって逃げるんだ?」


「近くに車を隠している。そこまで行くよ」


 信也しんやかなめ大護だいご 促されるまま車に乗り込み逃走した。

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