18話 血の掟
日本は
そもそも干渉力と定義されたのは第二次世界大戦以降であり、それまでは仏教でいう
時代の流れと共に超能力、異能力など超常的な力はあらゆる名を冠することとなる。
世界各地、呼び方は違えど超常の力、すなわち
人間の感情こそが全ての力の根源なのである。
そんな郡山家には血の掟が存在する。
一つ、郡山家宗家、分家に子を授かった場合はその名に水に準ずる文字を刻むこと。
二つ、当主の長子は成人の儀を終えた時点で次の当主となる。
三つ、当主の長子は生まれ落ちた時点で
四つ、三つ目の掟に限り、長子が当主になるまでは明かしてはならない。
各一族は干渉力を高める為に
信仰心や神へのイメージを統一することにより、干渉力を集約し土地神を創り上げていたのだ。
ただし、この事実はごく限られた一部の者しか知らない。
なぜなら神が人を創ったのか、人が神を創ったのかを議論する者などいなかったからだ。
神が人によって生み出れた事が知れれば、たちまち信仰心が揺らぎ干渉力を集約できずに土地神の力も弱まっていく。
それを防ぐ為にも各一族は掟を設け、その力を強固なものにしていった。
郡山家は生まれた子どもに、水に準ずる名を刻むことにより、一族の者が扱える干渉力を水に関する能力に統一した。
干渉力を扱える素質は血統や遺伝などの先天的要素が大きい。
ただし干渉力の内容を決めるのは育成環境や趣味嗜好など後天的な要素が大きいとされている。
ただし、郡山家のような例外も存在する。
郡山家は生まれた子どもの干渉力に対して、一族内で思想を統一し同系統の能力に半強制的に書き換えていたのである。
加えて、子ども自身も一族という環境内で育っていく内に干渉力に関するイメージも自然と同一のものに定まってくる。
水系統の干渉力こそが一族の証であり力の象徴であった。
こうして郡山家は力を拡大し
次期当主、
容赦ない日差し。
海斗には薔薇色の高校生活を送ることは許されておらず、中学を卒業してからは毎日、当主たるべく地獄のような修行を行っていた。
郡山家の境内から一番近くの町まで常人が歩いて半日はかかる。
海斗は修行の一環で自宅から町まで走り、日に50回往復し滝行や干渉力の鍛練などに明け暮れ、彼に自由な時間など存在しなかった。
もともと自由を愛する性格も相まって海斗の苛立ちは日に日に募っていく。
「なにが当主だ!なにが御三家だ!今時、干渉力なんて
「第二次世界大戦にだって導入されなかった。無能力者でも銃を持てば、そこら辺の干渉者よりよっぽど強くなるからな。加えて戦後、平和になった日本で今さら当主になってどうするってんだ!修行なんかやってられるか」
絶賛反抗期中の海斗は隙を見計らっては町まで下り息抜きをしていた。
この時既に、海斗は歴代最強とまで言わしめており一族内でも彼を止める事の出来る者は、父の
町まで遊びに出たはいいが、お金も無くする事もない。海斗は暇潰しと興味本位で手近な高校に侵入していた。
「夏休みの昼間だというのに、意外と人が多いんだな」
高校のグラウンドでは学生たちが野球の練習をしていた。
「このクソ暑いのによくやるよ。せっかくの青春なんだぜ。彼女や友達と遊べばいいのに」
適当に校内を散策していると背後から凛とした声の女性に呼び止められる。
「そこのキミ止まりなさい。あなた、ここの学生じゃないでしょ」
「すみません。すぐに出ていきます!」
海斗は慌てて声のする方へ振り向くと、そこには赤毛でポニーテールの女子高生がはにかみながら運動着姿で立っていた。
「あれ…アキか?」
「ふふっ、久しぶりねカイト。中学を卒業して音沙汰がないと思っていたら、まさか…不審者にまで成り下がっていたなんて」
「誰が不審者だ!アキこそ昔はガキっぽかったのに今はこんなに実って…」
海斗はアキの豊満な胸に目をやる。
「きもっ…不審者じゃなくて変質者だったのね。すぐに通報するからそこを動かないで」
「まてまて、冗談だって」
目の前の女子生徒の名前は西川アキ。中学生だった頃に、海斗がよく遊んでいた友達だ。
郡山家といえば地元は知らぬ者がいない程の名家である。
周囲の人間は名前を聞いただけで恐れ敬い距離を置き、そんな海斗と友達になるような物好きはそうそういなかった。
アキ以外にもう一人そんな物好きがいた。
小柄な少年で大人しく温厚な性格。いつも海斗とアキの喧嘩の仲裁をしていた。
「アキ。オウミは元気にしてるのか?」
「それがね、中学を卒業して引っ越したらしいのよ。びっくりよね。私たちに何も言わないで」
「そうか…別れを告げるのが辛かったのかもな」
「それを言ったらカイトだって今日まで何の連絡もよこさないで。家の事情もあるんだろうけどさ…」
アキは憂いを秘めた表情を浮かべ視線を落とす。
「悪かったって。今日は部活か?終わったら久しぶりに話でもしないか」
「仕方ない付き合ってあげよう。今日の部活は自主練だから適当なとこで切り上げるわ。ちょっと待ってて」
口では仕方ないと言いつつもアキは鼻歌まじりに去っていった。
それから海斗とアキは定期的に会うようになり、二人が恋仲になるまでそれ程時間はかからなかった。
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