金毛九尾討伐

8話 緊急召集

 なんやかんやと郡山家こおりやまけでの生活も2週間が過ぎた。

割り当てられた客間で爆睡していた信也は突然の怒鳴り声で起こされる。

「おい、シンヤ!いつまで寝てる。いい加減に起きろ!」


「あれ?ミズキ…。もう朝か…」

 信也しんやは、いつも以上に重力に逆らっている寝癖を触りながら、何事かと周囲を見回す。


「とにかくすぐに支度して広間に来い。緊急事態だ」

 水姫みずきに言われるがまま、訳もわからず信也は普段着に着替える。


 促されるまま和室の広間に着くと海斗かいとも含めた郡山家の面々と真依たちも和室に集められていた。


「これで、全員お揃いですね」

 朝水あさみは一旦、呼吸を整え話を切り出す。


「本日早朝に“境界保全機関きょうかいほぜんきかん”より、A樹海に殺生石せっしょうせきが運び込まれたとの報告が入りました。樹海内では既に殺生石が大量の干渉力かんしょうりょくを取り込んでいるとのこと。このままでは人的被害がでるのも時間の問題でしょう。首謀者は生司馬いくしま 大護だいごで間違い無いようです」


「親父…その何たら機関も殺生石せっしょうせきってのもわかねえんだけど…。それ、ヤバいやつなのか?」


「境界保全機関は防衛省がに新設した機関になります。ちなみに我々が使っている“ゴーストハンター”のアプリの運営元です」


 朝水はスマホの画面を信也に向けると、そこにはおどろおどろしい怨霊、悪霊のイラストが表示されたアプリ画面が表示されていた。


「そう言えば、アプリで親父に関する情報をやり取りしてたんだったな」


「ええ、その通りです。殺生石の説明は面倒なので省きます。日本各地の殺生石が既に盗まれています。本来は脱け殻となった代物しろもので、害はないのですが…悪意ある干渉者かんしょうしゃの手に渡り、尚且なおかつ運ばれた場所がA樹海となれば話は別です」


懇切丁寧こんせつていねいに説明してくれたつもりかも知らんが、なにやら危ないってことしかわからなかったぞ」

 信也は相変わらずの理解力を見せつける。

 

「朝水宛にも通達がきたってことは、郡山家も一応、御三家として協力養成が出てるんだろ?」

 水姫は、話が進まないから黙っとけと言わんばかりに信也を一瞥いちべつして朝水に確認を取る。


「はい。A樹海はもともと郡山家こおりやまけの管轄でもあります。依頼を断ってこれ以上家の名を堕とす訳にはいきませんので、当家も生司馬いくしま大護だいごの捕縛に協力します」


 朝水が敢えて処刑ではなく捕獲と表現したのは、信也に対する配慮であろう。


 ここまで話を進めると、今まで黙っていた灯浬あかりが意見する。

「朝水さん、差し出がましいのは重々承知していますが、貴方様の御身に何かあれば…郡山家はおしまいです」

 心なしか声が震えている。それはつまり、それ程今回の依頼が危険だということを指し示している。


「母上、心配しすぎですよ。私の実力はご存知ですよね。それに私に何かあっても、兄さんが跡目を継ぐだけですから」

 朝水は落ち着いた声のトーンで灯浬をさとす。


「バカ言え。勘当された俺がどうして家を継がなきゃいけないんだ。心配しなくても、俺と信也が郡山家代表として協力してやるよ。それに、大護は、もともと俺が追ってた標的だしな」


「さらっとオレも頭数に入れられてるんですが…」

 信也は親父の事は気になったが事態を飲み込めていないのに、危険な目に合わされようとしている事に対して異議申し立てをする。


「私は逆に頭数に入ってないんですけど…」

 真依も手を挙げ信也とは真逆の講義をする。


「殺生石ってことは十中八九、“金毛九尾きんもうきゅうび”の復活が目的だろ?最悪の場合、4次元クラスの大妖怪を相手取ることになるかもしれん。いくら俺でも魔除まよけが欲しい」

 水姫は信也を指差し壁役に任命する。


「おい!」

信也も負けじとツッコミを入れる。


竹取たけとりさんは留守番を頼む。今回はさすがに命の保証は出来ない。信也は親父が規律違反した責任を取りたいとのことだから仕方ない」


「おい!そんな事一言も言ってないぞ。まあ親父をぶん殴りたいからついていくけども」


「私もついていくよ!私だけ置いてけぼりにして皆で楽しむなんてヒドいよ。くろちゃんがいてるんだし大丈夫だよ」

 いつも以上に乗り気な真依。まるで、ピクニックにでも参加するような軽いノリだ。


 水姫は一貫して真依の参加に反対している。

「絶対ダメだ!今回はS高校での件とは比べ物にならないほど危険だ。こんな学校の七不思議程度の守護霊じゃ役に立たん」


「誰が七不思議よ、誰が!連れて行ってあげてもいいじゃない。真依が死んだら私と仲良く天国で暮らすわよ」

 くろも一緒になって反論する。


「パンッ!」

 突然大きな破裂音が鳴る。朝水が手を叩き、一旦、場を鎮める。


「皆さん静粛せいしゅくに。とりあえず時間がありません。竹取さんは私が責任を持って護ります。ただし、駐留ちゅうりゅうテントで私と待機してもらいますからね 。これで、母上も納得してくれますか?」


「かしこまりました。くれぐれもお気をつけ下さい」

 朝水と灯浬がそんなやり取りをしていると、隣で座っている真依が顔を真っ赤にさせていた。


「まさか責任を取るだなんて…これって愛の告白?確かに朝水さんはカッコイイけど…私には心に決めた人が…」

 真依は聞き取れない程の声で、ブツブツと独り言を呟いている。


「では、30分後に各自準備をして正面の鳥居の前に集合して下さい。間壁まかべさん、運転をお願いします」


「承知しました。旦那様」


 ここまでの一連のやり取りで、朝水の当主としての貫禄についつい感心してしまう信也であった。


 水姫の父親は話し合いの間も一切喋らず、ただ正面を見据えているだけだった。


 その後、信也たちは身支度を済ませ鳥居の前に集まる。

 最終的に朝水あさみ間壁まかべ水姫みずき真依まい信也しんやの5人でA樹海に向かうこととなった。

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