ボク

ボクはエイミ……というコードネームで呼ばれている。コードナンバーAIU-A13を割り当てられている。AIU-A13というコードナンバーは、感染症対策局Anti-Infection-Unitに所属している、A部隊A-Squadの13番目の隊員ということだ。


感染症対策局Anti-Infection-Unitは、都市でも随一の大企業である"ユ・サン"で運用されている、有り体に言ってしまえば企業私兵Corp-Armyだ。

"ユ・サン"は医療分野で活躍している企業で、都市の行政運用に深く食い込んでいる。


都市にある感染症対策局Anti-Infection-Unitの施設、ボクは今そこにいる。

感染症対策に於ける任務があるとのことで、A部隊が緊急招集されたのだ。


──休暇だったのに、全くもって面倒なことだ。

ボクは胸ポケットに入れていた煙草を取り出し、空を見上げる。

高層ビルの合間を縫って、小さな翼竜が飛んでいくのが見えた。


おおよそ動物なんてものは、感染症の防止のため、駆除の対象となってしまうご時世だ。近頃では、生きている動物を都市の中で見かけるのは珍しい。

そんなことを考えながら、休暇中にやりたかったことを思い起こしていた。


──都市から離れたところにある洞窟に、大きな翼竜がいる。

もう三年も前になるかな……ケガしているところを見つけて、"個人的に"保護をした。動物の保護など、当局にとっては大きな問題行為だ。報告はしていない。


名前を付けるのが苦手だから、"ドラゴン君"と呼んでいる。

随分とボクになついている。"ドラゴン君"と呼ぶと嬉しそうな鳴き声を出しながら、鼻先を擦り付けてくる、とても可愛いやつだ。嬉しいときに、翼をパタパタさせたりすることがあるのだが、この仕草もまたたまらない。

……とにかく、この"ドラゴン君"と遊ぶのが休暇中の楽しみなのだ。


『A部隊諸君、10分後にブリーフィングを開始する』

局長から通信が入った。そろそろブリーフィングルームに向かわないと。

ボクは煙草の火を消し、一度深呼吸をしてから、施設内へと歩を進めた。


***


ボクがブリーフィングルームに入ると、すでに他の隊員は席についていた。

ボクも席に着くと、ほどなくして局長がブリーフィングルームに入ってきた。


「A部隊諸君。今回は休暇の中、集まってもらって感謝している」


「都市では、感染症の種類、感染者の数が、増加傾向にある現在の状況を鑑みて、緩和措置を取ることとなった」


「当局では、都市郊外に於ける感染症媒介生物の駆除を担う。今回は現地調査を行ってもらいたい」


恐らくだけど、"感染症媒介生物の駆除"はただの名目だろう。

本社が、近々取引先を増やす、という話を小耳にはさんだ。取引先への輸送経路、輸送空域の安全確保が本来の目的なのだと思う。


「任務内容の概要と、任務区域のマップを諸君らに転送する」


視界に任務区域のマップが表示される。

……これは……任務区域に"ドラゴン君"の洞窟がある。


「また、任務区域にて翼竜が複数体確認されている。今後の緩和措置の障害となる可能性があるため、発見次第報告すること。以上だ。」


……今回は調査だけだから洞窟が見つかっても、まだ猶予があるけど……できるだけ見つからない方がいいよね?

……焦っているせいか、頭が回らない。


ひとまず、ブリーフィングルームを出て、駐車場へと向かうことにした。


***


「やあやあやあ!エイミ!調子はどうだい?」

ボクの肩をポンポンと叩きながら、底抜けに明るい声で語り掛けてきたのはコードナンバーAIU-A06。コードネームはオーブ。


「まったく、こんな任務なら別に平日でいいと思わない?休暇返上なんてホント嫌になっちゃうよね!アタシたちにもプライベートってもんがあるのにさ!」

そういいながら、ほっぺを膨らませるオーブ。


「オーブ、あまり迂闊なことは言わない方がいい。」

そう言ってオーブを制止したのはコードナンバーAIU-A03。コードネームはオッサン。A部隊長だ。


「オッサン!オッサンだって内心不満はあるでしょー!」

「オーブ、そのコードネームを連呼するのはやめてくれといつも言っているだろう。隊長と呼べ。」

「は!大変失礼いたしました!オッサン隊長!」


「お前は……まあいい。隊員揃っているな。これより任務区域へ向かう。」


ボクは、特に何も思いつかないまま、他の隊員とともに社用装甲車ビークルへと乗り込んだ。

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