第52話 癒しの薬

 まりんのキスを通じて、解毒剤を飲み下した細谷はゆっくりと、目を覚ます。

「赤園……?」

 はっきりとした視界の中に、くっきりと浮かぶまりんの顔を見詰めながら、細谷はそう、おぼろげに第一声を放った。

「気分はどう?」

 安堵の笑みを浮かべて、まりんは細谷に具合をく。

「まだちょっと、頭がボーとするけど、もう大丈夫だ」

 上半身を起こし、まりんに微笑みかけた細谷は

「ありがとう。赤園のおかげで命拾いした」

 やんわりと感謝の気持ちを述べた。

「良かった……細谷くんが、元気になってくれて」

 心の底から安堵したまりんは、嬉しそうに微笑んだ。


「ごめんね。もう少し、細谷くんと話してたいけど……待たせてる人がいるの」

 徐に立ち上がり、申し訳なさそうに告げたまりんは体の向きを変えると、再び走り出す。

 その一方で、まりんの不意打ちを食らったセバスチャンは、大鎌から元に戻った剣を手に、動けずにいた。

「待たせたわね」

 自力で立っていられず、片膝をついて蹲るセバスチャンの面前に、凛々しい面持ちで舞い戻ったまりんが姿を見せる。

「あなたも解毒剤これを飲まないと、無事じゃ済まなくなるわ」

 徐に片膝を折り、同じ目線になるとまりんは、すっと、残りの解毒剤が入る小瓶をセバスチャンに差し出した。

 解毒剤それを見て、ふっと困惑の笑みを浮かべたセバスチャンがやおら応じる。

「……解毒剤それは、私が細谷くんに食らわせた死毒もうどくのみに有効です。

 大変申し上げ難いことですが……私が飲んだところで、効果は得られないでしょう」

 セバスチャンにとっては、しごく真っ当な意見を述べたに過ぎない。

 だがそれは、面前で見据えるまりんにとっては想定内だ。

「確かに解毒剤これは、今のあなたには無能な薬よ。このままだとね」

 しゅくしゅくと返事をしたまりんは、右手で握る小瓶に力を集中させた。次の瞬間。

 小瓶の中に残る解毒剤の色が、眩い光を放つ、優しい色合いの空色へと変わったではないか。

「癒しの薬。死封の力など、特殊な力の効能を消す薬……

 この瓶の中に入ってる解毒剤に神力を加えて、今のあなたにぴったりの薬を調合したってわけ」

 まぁ、どうしても飲みたくないなら、無理に勧めないけど。

 まりんはそう、冷やかな目つきで言葉を締め括った。

 一瞬、目を見張ったセバスチャンは、細長い剣から右手を離し、警戒心を解く。

「あなたと言う女性ひとは……」

 いよいよ降参の笑みを浮かべたセバスチャン。徐に右手を伸ばし、まりんが差し出す小瓶を受け取る。

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