第51話 決着

「あなたには先ほど……強めの催眠術を施した筈ですが……」

「かかってたわよ。シロヤマが、駆けつけて来る前まではね」

 まりんはつんけんとした態度で、徐に問いかけたセバスチャンに応じた。

「なるほど……この中で、最も信頼するうちのひとりであるガクトくんの声で、正気を取り戻したわけですか」

 何もかも見透かしたような笑みを浮かべて、セバスチャンが真相を解明する。

「そして、催眠術にかかっているふりをして私に近づき、このような仕打ちを……」

「あなたに近づくためには、これが一番、手っ取り早いのよ」

 セバスチャンの、大鎌の重圧を背中で感じながらも、毅然とまりんは言った。

「危険を顧みず、ここまで無し遂げるとは……見上げた根性ですね」

 ふっと、降参の笑みを浮かべて、静かに告げたセバスチャンは不意に、まりんから大鎌を遠ざけた。

「私が着ている上着の、左側の内ポケットに小瓶が入っています。それを持って行き、細谷くんに飲ませてあげてください」

 とうとう、まりんの魂を回収することを諦めたセバスチャンからの指示に、驚きの表情をしたまりんは思わず、問いかける。

「ま、まさかそれって……」

「あなたが今、最も欲しがっている解毒剤ものですよ」

 やんわりと微笑んだセバスチャンはそう告げた。

 にわかに動揺する気持ちを抑え、そっと手を伸ばし、灰色の燕尾服の内ポケットから解毒剤入りの小瓶を取り出したまりん。

「ここで待ってて。すぐ、戻って来るから」

 毅然たる態度でセバスチャンにそう言い残し、解毒剤を持って駆け出した。

「まりんちゃん……?」

 結界の中に飛び込み、狐につままれたような顔をして佇むシロヤマの脇を通り抜け、両手で包み込むように解毒剤を持ちながら、まりんは細谷を警護する美女のもとへと駆け付けた。

「おかえりなさい。その様子だと、うまく行ったようね」

 急いで駆けつけたまりんの顔色を見て、にっこり微笑んだ美女が安堵したように告げる。

「細谷くんは……?」

「気を失っているわ。今が最も、危険な状態よ」

 緊張の面持ちで尋ねたまりんに、美女は険しい顔で現状を報告した。一刻を争う事態だ。

 美女の言葉で瞬時にそれを理解したまりんは体の向きを変え、細谷のもとへと急ぐ。そして青白い顔で仰向けに横たわる細谷の脇で、まりんは膝を折った。硝子で出来た円筒状の小瓶を左手で握り、右手でコルク栓を抜く。

 小瓶の中に入っている、青紫の液体を口にふくんだまりんは、細谷に顔を近づけてキスをした。

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