第44話 嫉妬~とんでもない勘違い

「そりゃ嫉妬すんだろ。自分が好きな赤園相手が、恋敵ライバルにハグされてるのを見てたら誰だって……」

 仏頂面を浮かべて冷やかに返答した細谷の反応を見て、ますますにやりとしたシロヤマは言った。

「細谷くん……きみは実に素直でいい子だね」

 そうかそうか。今まで気付かなかったよ。それならそうと、早く言ってくれればいいのに。

 そう言って、そっと立ち上がったシロヤマは、屋上の床に両膝をついているまりんを背にし、細谷と向かい合った。

「さぁ、俺の胸に飛び込んでおいで!」

「……はァ?」

 満更でもない笑みを浮かべてさっと両手を広げたシロヤマの言動にわけが分からず、細谷は呆然とした。

「きみも、ハグして欲しいんだろう?だから嫉妬なんてかわいいことを……」

「シロヤマ……おまえ、なんか勘違い……」

「大丈夫!俺は自分が気に入った相手ひとなら、誰とも愛せるから!」

 但し、男とは一線を越えない範囲内だけどなっ!

 細谷の言葉を遮り、ハイテンションで断言したシロヤマ。

 少女漫画特有の、ほわわぁんとした雰囲気を出しながらスタンバッているシロヤマの口から、『男とは一線を越えない範囲内』という言葉を聞き、身の危険を感じていた細谷はちょっとだけほっとした。

「シロヤマ。改めてここに、宣言する」

 屋上の床に槍を突き立て、深呼吸した細谷は気持ちを整えると、冷静沈着に断言する。

「俺は、おまえを信じるぞ」

 真顔でそう告げた細谷は、ふっと力が抜けて、前のめりになった全身をシロヤマに預けた。

「細谷くん……?」

 咄嗟に細谷の体をキャッチしたシロヤマは、なんだか様子がおかしいといぶかった。

 そして、なにげなく細谷の左肩を支えていた右手の平を視認したシロヤマは思わず、息を呑んだ。

 細谷のものと思われる血液が、険しい顔で見据えるシロヤマの、右手の平に付着している。

「きみ……怪我してんの?」

屋上ここで……セバスチャンの不意打ちを食らってな……怪我自体は大したことはないが……うっ……どうやら、毒を盛られたらしい」

 左腕一本で体を支え、鋭い口調で尋ねたシロヤマに、細谷は全身の苦痛で呻きながらもそう答えた。

「……分かった。解毒剤は、俺がなんとかしてやるよ」

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