第40話 優しい涙

 それからすぐ、誰かがこちらへやって来る気配を察知したシロヤマは慌てて、生命いのちを救ってくれたなにかを内ポケットにしまい直した。

「……やあ」

 平静を装い、愛想笑いを浮かべてまりんと顔を合わせたシロヤマは、朗らかに挨拶をする。

 だが、シロヤマの面前で立ち尽くすまりんは真一文字に口を結び、俯いたまま、返事をしなかった。

「ひょっとして……怒ってる?」

 まりんの顔色を見ながら、恐る恐る尋ねるシロヤマ。硬く口を閉ざすまりんはやはり、返事をしない。

「怒るよね……俺は、きみの大事なモノを奪おうとしたんだから。

 消滅覚悟で突っ込んで行って、今もこうして生きながらえている……誰だって、こんなこと納得しない」

 薄ら笑いを浮かべて語るシロヤマはそこで一旦区切ると

「ごめんな。怖い想い、悲しい想い、いっぱいさせてしまって」

 真顔で、真摯に謝罪した。

「……ホントだよ」

 シロヤマの気持ちを汲んだまりんが、ようやっと口を開く。

「私のいのちを回収するのが、あなたの役目なのは理解出来る。

 けれど……こんなに胸が張り裂けそうな想いをするのは、もうたくさん!」

 俯いたまま、切実な本音を口にしたまりんに返す言葉が見つからず、複雑な顔をしてシロヤマも俯いた。その時だった。

 両手を広げたまりんが、ガバッとシロヤマを抱き締めた。

「シロヤマが無事で……本当に良かった」

 両膝をつき、シロヤマの右肩に顔をうずめるまりんの声と体が、溢れ出る大粒の涙で震えている。

 シロヤマからはその泣き顔は見えなかったが、心の底からシロヤマを想い、嗚咽おえつするまりんの気持ちだけは胸に刻んだ。

 ……ごめん。本当に……ごめん。

 心の中でひたすら詫びながらシロヤマは、愛情をめてまりんを抱き返した。

 死神は、対象者にんげんに嫌われてなんぼの存在だ。

 だから当然、赤園まりん彼女にも嫌われていると思っていた。

 初めての出会いからして、そうだったのだから。

 けれど今や、そんな死神そんざいの身を案じ、優しい涙を流している。

 温かくも優しい気持ちに触れ、心身ともに浄化されたシロヤマは改めて、これからも赤園まりんを死守して行くと心に硬く誓った。

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