第39話 俺は何故、助かったのか......

 今思い返せば、確かにおかしかった。

 シロヤマが細谷に射ぬかれて倒れた時、ここにいる大人たちは誰ひとり動かなかった。

 まりんが思うに、大人たちはとっくに気付いていたのだろう。

 単に白羽の矢を受けたショックで、シロヤマが気絶しただけであることを。

 何故、そんな簡単なことに気付けなかったのか。

 死神と言えど、面前で人がひとり倒れ、愛する細谷かれが手に掛けたことのショックで周りが見えなくなり、肝心なことを見落としていた。

 それは、シロヤマの望みを叶えるため実行に移し、まりんを傷つけてしまった細谷にも同じことが言えるだろう。

 まりんと細谷がその事実を知るのは、これよりだいぶ後になってからのことである。



 突如として、屋上に姿を見せた謎の美女に、およそ五メートルほど蹴り飛ばされたシロヤマは、仰向けの状態でぼんやりと、屋上に横たわっていた。

『――シロヤマに矢を射ったのが細谷くんじゃなくて、他の誰かだったら……』

 そう、涙声でまりんが細谷に訴える少し前から、シロヤマは目を覚ましていた。

 だが、今は自分が出る幕ではないと状況を察し、気絶してるふりをしていたのである。

 目を開けて、屋上から見える紅色の夕焼け空を眺めるシロヤマ。

 想うことは多々あれど、自ら無茶したことで傷つけてしまったまりんと、大切な女性ひとに対して申し訳ないことをしてしまったと言う罪悪感がシロヤマを襲う。

 そーいや俺……なんで、助かったんだろう。

 何気にふと、そのことが気になったシロヤマは、ゆっくりと右手を動かした。

 左胸にそっと当てた右手の指が、なにか硬い物に触れた。

 自身が着ているダークスーツのジャケットの中に、何かが入っている。

 それに気付いたシロヤマは、徐に上半身を起こし、ジャケットの内ポケットをまさぐった。

 なるほどな……俺はこいつに、生命いのちを救われたってワケか。

 誰にも見られないようにしながら、内ポケットから、少しだけ引っ張り出したなにかを視認し、思わず苦笑したシロヤマはそう、心の中で呟いた。

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