第38話 目覚まし方法は人それぞれⅡ

「……っ??!!」

 つやのある黒髪ショートヘアが良く似合う美女が履いている、黒くて頑丈な厚底ロングブーツが、シロヤマの腹にクリーンヒット。

 弾みでシロヤマの体が宙を飛び、衝撃音とともに屋上に転げ落ちる。

 サッカーボールを蹴り飛ばす要領でシロヤマをぶっ飛ばした美女。

 かなり見た目とギャップがあるその姿に、その場で佇みながら、放心状態と化すまりんと細谷の二人に激震が走ったのだった。

(以下、まりんの心の声)イヤ待って。よく分かんないんだけど。あの美女ひと今、死神死人を蹴り飛ばしたよね?

 しかも美人なのに、どうでもいいボケをかます相方に、切れ味抜群のツッコミを入れる芸人張りの叫び声あげなかった?

(以下、細谷の心の声)つか、なんかいろいろおかしくない?

 そりゃまァ、相手は死神だし?もとは死人なんだから、蹴り飛ばしたところで痛くも痒くもないだろうけどさァ……

(以下、まりん、細谷の心の声)やっぱ、駄目ダメだろ。どんな理由があるにしろ、死人を蹴り飛ばすのは人としてやっちゃいけない。絶対に良くない!

 面前で起きた状況を冷静に分析し、混乱した頭の中を整理したまりんと細谷。互いに顔を見合わせ、こくりと頷く。

「あ、あの……」

 固唾を呑んで見守る細谷を背に、まりんは緊張の面持ちで第一声を放った。

 まりんの呼び声に反応した美女が、ゆっくりと振り向いた。

「お気持ちは察しますがその……今のは流石に、やりすぎでは……」

 当たり障りのない口調でしごく真っ当な意見を述べたまりんに、向かい合う美女はいささか残念そうに微笑むと返事をした。

「……もうとっくに、気付いてると思っていたわ」

「えっ……?」

「これは、他の人達も同じなのだけれど……死神はね、消滅する時はその魂が無に還るの。

 つまり……魂が消滅するのと同時に、それが宿る本体も消えてしまうのよ。

 それなのに、消滅した筈の彼の体が消えずに、この世に置き去りのまま……おかしいと思わない?」

 意味深な美女の言葉には、妙な信憑性がある。

 何もかも見透かしたような含み笑いを浮かべて問いかけた美女の、言葉の意味を考えているうちに、ある可能性を見出したまりんは思わず、息を呑んだ。

「ま、まさか……」

「そう。その、まさかよ」

 ようやっと気付いたみたいね。そう言いたげに微笑んだ美女が、まりんの呟きに応じる。

「彼はまだ、生きているわ。今まで気を失っていたようだけれど、今のでばっちり目が覚めた筈よ」

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