第37話 目覚まし方法は人それぞれⅠ

 決して下を向くことなく、まりんを見詰める細谷には、切実に訴えるまりんの声がしっかり届いていた。

 ただ今は、まりんの胸中を察し、また、自分自身がしたことを踏まえると何も言えない。

 これも、望んだことなのか?

 前を向いたまま、細谷は自問自答した。

 いや、違う。赤園を悲しませ、苦しめて傷つけるのは、俺が望んだことじゃない。それは、シロヤマも同じだ。

 俺はあくまで、シロヤマの望みを叶えただけ……なのに……なんでこんなにも、罪悪感でいっぱいなんだ。

「大丈夫?」

 どこからともなく現れた美女が微笑み、後ろから細谷の顔を覗き込む。

 ファー付きの白いダウンジャケットを着込み、両手を後ろに組んで心配そうに具合をいて来た美女に、はっとした細谷は思わず身じろいだ。

「難しいわよね。この場合……大人だって、どうしたらいいのか、分からないもの」

 よく澄んだ美声でそう言うと美女は、コツコツと靴音を響かせ、まりんの方に歩み寄る。

「ごめんなさいね。あなたにまで、迷惑をかけてしまって」

 きょとんとするまりんの頭を撫でながら、申し訳なさそうに詫びた美女は微笑むと、まりんから離れ、シロヤマの方へと向かった。

「他にもやり方はあった筈……それなのに、自らほろびの道を選ぶなんて……なんて愚かで滑稽なのかしら」

 左胸に矢が刺さったまま、屋上に倒れ込むシロヤマを眼下に、冷めた顔をして佇む美女は呟いた。

「あなたには、死神生命を懸けてまで護りたい、大切な女性ひとがいるのでしょう?

 だからこそ、楽な方へ逃げ込もうとしたあなたを、天の神様は許さなかった」

 徐にしゃがんだ美女はシロヤマに手を伸ばし、すっと白羽の矢を抜いた。

「さあ、ガクト。目を覚まして。あなたの言葉で、屋上ここにいる全員が納得の行く理由を聞かせてちょうだい」

 静かに引き抜いた白羽の矢を右手で持ち、呼びかけた美女の言葉に、依然として屋上に横たわるシロヤマは返事をしなかった。

「……そう。分かったわ。あなたが、その気なら……私が目覚めさせてあげる」

 残念そうにゆっくりと立ち上がった美女はすー……と大きく息を吸い、

「いい加減、目を覚まさんかい!!」

 心の底から思い切り叫び、同性のまりんが羨むほどの細長い美脚でシロヤマを蹴り飛ばした。

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