第36話 決意と決断Ⅲ

 そろそろ……限界のようね。

 己の限界を悟ったまりんは最後の力を振り絞り、操っていた紅蓮の炎すざくを凍らせた。

 爪先つまさきから頭のてっぺんにかけて分厚い氷の中に閉じ込めた紅蓮の炎すざくにひびが入り、バリンと音を立てて粉砕した。

 そろそろだな……

 シロヤマがタイミングを見計らい、紅蓮の炎に向かって神力しんりょくを放つ。

 シロヤマが操っていた紅蓮の炎フェニックスも分厚い氷の中に閉じ込められ、すざくと同じ運命を辿った。

 再び静寂した屋上で、全ての力が尽きたまりんの体がぐらりと傾く。

 それを見逃さなかったシロヤマが、機敏な動きで突進する。

 間髪入れず、倒れかけたまりんの体を、駆け寄った神様が後ろから支え、瞬時に結界を張る。

 時は来た。細谷は、番えた白羽の矢をぐっと引いた。

 ついにまりんの目と鼻の先まで迫ったシロヤマが、大鎌を振り上げた。

 今だ!

 細谷はタイミングを見計らい、地上にいるシロヤマめがけ、上空から矢を撃ち放つ。


 ドスッ


 上空から飛来した一本の矢が、シロヤマに命中した。

 左胸に白羽の矢が刺さり、振り上げた大鎌が手から滑り落ちる音が屋上に響く。

 ガクッと、膝から崩れ落ちたシロヤマは、そのまま横向けに倒れて動かなくなった。

 これでいいんだ。これが……シロヤマあいつが望んだことなんだから。

 いろいろな感情が渦巻くなか、細谷は必死で自分に言い聞かせた。

 てのひらに指の爪が食い込むほど、右手をきつく握りしめて。

 ふぅー……と深呼吸をした後、意を決して結界から飛び出し、屋上に下り立った細谷は、驚愕のあまり青ざめるまりんと向かい合ったのだった。


「赤園を助けるためには……いや、シロヤマを止めるには、こうするしかなかったんだ」

 そう、毅然とまりんを見詰めながら断言した細谷の言い分はもっともだった。

「……そうね。あの至近距離でシロヤマを止めるには、ああするしかなかった。でも……」

 体の底から湧き上がって来る熱いものをぐっと我慢したまりんはそこで一旦区切ると

「これが全て、幻だったらいいのにって思わずにはいられない。こんな残酷なことってないよ。

 シロヤマに矢を射ったのが細谷くんじゃなくて、他の誰かだったら……こんなにも、胸が張り裂けそうになることもなかったのに」

 左手で胸を押さえながら、薄ら涙が浮かぶ切ない顔をして、言葉を付け加えた。

 真一文字に口を結ぶ細谷は、返事をすることなく、沈黙した。

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