第34話 決意と決断Ⅰ

 雷に打たれたような衝撃が走った。

 この世の中に、死神の命を奪う弱点ちからが存在していようとは、微塵みじんも思わなかった。

 まりんに、死神の弱点を教えた神様の言葉には、絶望感が漂っていた。

 そして、重苦しい沈黙が俯いたまりんと、肩から手を離し、まりんの体を支えるのを止めた神様との間に流れた。

「一体、誰が……」

 辺りがしんとするなか、まず最初に沈黙を破ったのは、俯いたまま、誰の支えもなく自力でその場に立つまりんだった。

「誰が……白羽の矢をったの?」

 混乱した気持ちが静まり、冷静さを取り戻したまりんがぽつりと疑問を口にした時だった。

「俺だ」

 極めて冷静に回答する声が背後で聞こえ、はっとしたまりんの顔に緊張が走った。

 ま、まさか……

 妙な胸騒ぎがしたまりんは、ゆっくりと振り向いた。

 思わず目を丸くしたまりんの視線の先に、冷酷な顔をして佇む細谷の姿が、そこにあった。

「俺がこの手で、シロヤマに矢を撃ち放った」

 左手に弓を携え、細谷は残酷に言った。

 殺伐とした雰囲気を漂わす細谷がまるで、目的のためなら手段を選ばない狩人ハンターのように思えて、氷のように立ち竦むまりんは戦慄を覚えた。


 肌を刺すような冷たい風が、屋上を吹き抜ける。

 敵と味方、地上と上空とに別れる大人たちもそこから動く気配はない。

 不気味なほど静寂している屋上で向かい合う、男女二人の高校生こどもたちを、口を閉ざす大人たちはただ見守っていた。

「……答えて」

 冷静を装い、ポーカーフェースでまっすぐ細谷を見詰めながら、まりんは重い口調で尋ねた。

「どうして……弓矢を使ったの?」

 切なさが滲むまりんの問いかけに、細谷はやおら応じる。

「赤園を助けるためには……いや、シロヤマを止めるには、こうするしかなかったんだ」

 そう、毅然とまりんを見詰めながら、細谷は断言した。

 最初の言葉は、ただ細谷じぶんを納得させるための詭弁きべんだ。

 本当の意味は、俺が赤園に言った、最後の言葉にある。

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