第27話 油断大敵Ⅰ

「ありがとう。後は、俺に任せろ」

 まりんの優しさに触れ、奮起した細谷は前を向いたまま、まりんにしか届かない声で力強く言った。

「うん」

 ぎゅっと、愛情をめて手を繋ぎ返した細谷に、頬を赤らめたまりんは優しく返事をする。

 自分からそっと手を離すと細谷は、槍を構え、シロヤマめがけ突進した。

 もう大丈夫。もう、ひとりじゃないから。

「頑張れ。細谷くん」

 大切なひとに愛される喜びを感じながら、まりんはそっと細谷に声援エールを送る。決して、振り向かずに。

 いつまでも、喜びを噛み締めてはいられない。

 すぐさま気持ちを切り替えるとまりんは、きっと前方を睨めつけた。


 カキンッ


 再び鋭利な槍と大鎌の刃が交差し、火花が散る。

「きみってホント、諦め悪いよね」

 構えた槍を前に突き出し、突進してきた細谷の先手攻撃を、手持ちの大鎌で防いだシロヤマがそう、半ば呆れたように低い声で毒を浴びせた。

「そうらしい。けどこれが、おまえの命取りになるのは明白だ」

 シロヤマの毒舌攻撃に怯むことなく、諦めが悪い点を認めた細谷はキザな笑みを浮かべて宣戦布告した。

「さァ、始めようぜ。男同士の、本気の戦闘けんかをよ」


 張り詰めた空気が辺りを満たすなか、緊張の面持ちで細谷と刃を交差するシロヤマは、ぐっと力を籠めて大鎌を振るう。

 野球のバットをスイングする要領でシロヤマが振ったその弾みで、細谷が後方へ飛び退いた。

 シロヤマがすかさず大鎌を振りかぶり、緑色に光り輝く三日月形の刃を飛ばす。

 細谷は、前方から飛来するそれを睨めつけた。次の瞬間。

 シロヤマが飛ばした光の刃が、細谷の目と鼻の先でぴたりと止まった。

 宙に浮いたまま、微動だにしない光の刃を、更に眼光鋭く睨めつけた細谷は、魔力を使って細長くすると、シロヤマに撃ち返す。

 咄嗟に構えた大鎌で、弾丸と化した光の刃を受け止めたシロヤマ。

 大鎌にかかる重力に体がついて行けず、土埃を上げて後方へ引き摺られた。

 おかしい。たった今まで、勝てると思っていたのに。

 この短時間で急に、細谷が強くなった気がする。

 すんでの所で持ち堪え、全身全霊で大鎌を振るい、光の刃をかっ飛ばしたシロヤマは違和感を覚えた。

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