第25話 人は、ピンチと書いてチャンスと呼ぶ

「細谷くんがピンチなら、助けに行かなきゃだけど……」

 そこまで言いかけて口をつぐんだまりんは、不意に俯いた。

 細谷くんよりも弱い私が、助太刀なんて出来るんだろうか。

 カシンにすら太刀打ち出来ないのに、シロヤマと対戦なんて……

 自信を失くし、挫けそうになっているまりんの心を見透かした神様が、優しく微笑みながら諭す。

「まりん。実力も立場も、シロヤマよりカシンの方が数段上なのだよ」

「ですが……私は、弱い人間です。シロヤマだけでなく、セバスチャンとも対戦しなくてはならない。

 自分で……自分の身を護ることすら出来ない私が彼らと対戦して、勝ち目はあるのでしょうか」

 戦意喪失したまりんの言葉から、迷いが見える。

 面前に佇む神様はまたしても、まりんの気持ちを見透かした。

「勝ち目はないだろう」

 真顔で、ばっさり斬り捨てた神様はすかさず、

「そなた、ひとりのみではな」

 キザな笑みを浮かべて言葉を付け加えた。

 自信と余裕のある神様の言葉から、まりんは少しばかりの希望を見出したような気がした。

 希望の光が宿る眼差で、まりんはふと顔を上げると、神様を見詰めた。

「案ずるな。そなたがどこに行こうと、必ず援護する。私が傍についている限り、死神達やつらには手出しさせん」

 私……達?

 しっかりとまりんの目を見詰めて告げた神様に、まりんは違和感を覚えた。

 この場所にいるのはまりんも含め、神様と死神のカシンの三人だけである。

 これは思い込みなのか?神様の体越しに見えるなにかを凝視したまりんは息を呑んだ。

 そう、まりんはすっかり『思い込んで』いたのだ。

 不穏さの中に神々しい雰囲気が漂うこの場所にもうひとり、誰かがいる。

 両肩に、金色の房飾りがついた留ね金つきの銀白のコートを羽織り、背中くらいまである白髪を、灰色の紐で束ねたその人は、よほど体格のいい男性のようだ。

 身長百五十センチのまりんよりも背が高い神様が華奢きゃしゃで小柄に見える。

 おそらく、神様の小顔ひとつぶんほど、背は高いのだろう。

 もうひとり……助人すけっとがいたんだ。

 凛々しい姿で佇む神様と背中合わせになって佇むその人に、まりんは密かに、胸を躍らせたのだった。

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