第22話 危機一髪Ⅲ

「そんなこと……言われなくても分かってるわよ!」

 ひらりひらりと攻撃をかわされ続けること数分。

 くっと唇を噛んだまりんは憤慨した。

 むかつくけど、今のは正論だわ。

 けれど、今まで一度も剣術を習ったことがないんだもの。仕方ないじゃない!

 カシンの指摘を認めつつも、まりんの反抗する気持ちが、納まりそうにない。

 結界と言う名の檻の中で、まりんとカシンが対峙する。

 実際はそんなに経っていないだろうが、冷や汗の浮かぶ凛々りりしい表情でカシンを睨め付けるまりんには、その時が五分以上長く感じられた。

「そろそろ、観念する気になったか?」

 背丈を越す、プラチナの大鎌を右手に持ち、威圧的態度でカシンが迫る。

「この私が、観念するわけないじゃない」

 フンッと、冷笑を浮かべたまりんは強気に応じる。

「強気でいられるのも、今のうちだ」

 じわりじわりとまりんとの距離を縮めながら、カシンが冷やかに呟く。

 ……こんな時に、こんなことをするのは、虫が良すぎるけど……

 左手で剣を携え、右手でぎゅっと、ロングコートの右ポケットに入れたままの御守りを握りしめたまりんは切に祈った。

 ごめんなさい。本当はあなたに頼むべきじゃないのに……

 自分の力で無し遂げたかった。けれど、今の私には、自分自身を護る力すらないの。だから……

「神様どうか……哀れな人間をお救い下さい!」

「よかろう。なんじのその願い、しかと聞き入れた」

 良く通る、男性の声がどこからともなく聞こえた。

 刹那、金色に光輝く小さな球が浮遊してきたかと思うと、アイボリーの着物を着た人間が颯爽と姿を現した。

「神……様?」

 面前に姿を見せた人間と対面するまりんが、愕然としながら尋ねる。

「いかにも」

 凛々しい笑みを浮かべて、神様は力強く返答した。

 ゆるふわのパーマがかかる栗色のショートヘアに切れ長の、緑色の目で凛々しく微笑みかけるその男性ひとは、ぽっと頬を赤らめたまりんが見惚れるほど、容姿端麗であった。

 まりんは今まで、他力本願と同類で、頼ってしまえば、自分自身を甘くしてしまうと、神頼みをタブー視して来た。

 だが、生命の危機に直面しているこの時ばかりは、神頼みをせずにはいられなかった。

 まだ謎多きこの物語を、こんな中途半端で終わらせたくないし、どうしてもこの先へ進まねばならない理由が、まりんにはあるからだ。

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