第20話 危機一髪Ⅰ

 死神総裁の肩書を持つだけのことはあって、カシンの脅しは実に効果覿面こうかてきめんだった。

 威圧感を漂わせるその死神ひとに怯え、まりんは後退りした。が、目に見えない壁に当たり、まりんは一歩も動けなくなってしまった。それが、カシンが張った結界であることに、まりんはすぐに気付いた。

 いよいよヤバイところまで来た。

 冷や汗の浮かぶ蒼白い顔で、まりんは死を悟った。

 普通の人間ならここでもうTheendジエンドだけど、絶対そうならないわ。

 だって私は……この物語の主人公だもの。

 体の底から沸々ふつふつと、自信が湧き上がって来る。

 どんな物語においても、主人公は永遠に不滅。

 そんな自信からまりんは、死を悟っても、それを受け入れる気はもうとうなかった。

「そうね。私もいい加減疲れたし、ここいらで止めておこうと思うわ」

 冷めた口調で、まりんは言った。

 もう、逃げまわるのに疲れた。

 細谷くんが傍にいなくて不安はあるけれど、私はひとりじゃない。

 赤いロングコートの右ポケットに入れた御守りを、右手でぎゅっと掴んだまりんは、面前に佇む死神と戦う決意をした。


 まりんと別れ、細谷はひとり、シロヤマとセバスチャンの行方を追った。

 右手に持ったスマホを頼りに町内を走り回った結果、細谷はついに二人を見つけた。

「ここにいたか」

 廃墟ビルの屋上に居る筈のない細谷の、冷静沈着な声に気付き、背を向けていたシロヤマがぱっと振り向いた。

「細谷くん……?きみ、どうやってここに……」

 その声は、明らかに動揺している。

 冷静な表情を浮かべる細谷は、淀みなく返答した。

GPSジーピーエス。シロヤマに付けた発信機を頼りに走りまわったら、ここに辿り着いた」

 さらりと凄いことを言って退けた細谷の返答を聞き、青ざめたシロヤマは慌てて体中を調べる。

 細谷の言う通り、着ているジャケットの襟の裏に、それはひっそりとついていた。

 い……いつの間にこんな物を!

 襟の裏に取りつけられた発信機を取り、指で揉み潰したシロヤマはちょっとした恐怖を覚えた。

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