第18話 狙われた赤ずきんちゃんⅠ

「それなら私も行く!」

 細谷に感化されたまりんは俄然、覚悟を決めて同行しようとした。しかし……

駄目ダメだ。セバスチャンがいる以上、赤園も一緒に連れて行けない」

 右手をグッときつく握りしめて俯いた細谷は、感情を押し殺したように話を続けた。

「今のこの状態は、シロヤマが決死の覚悟で作り出した『チャンス』なんだ。俺は、そんな彼の気持ちを汲んでやりたい」

 あの攻防戦で俺は、シロヤマに押されてた。

 あんなやつに押されるようなら、セバスチャンには勝てない。

 俺に、赤園を護ってやるだけの力があればいいのに。

 口に出さなかったが、細谷は心の底から悔しい本音をらした。

「……分かったわ」

 暫く沈黙した後、静かに口を開いたまりんは言った。

「細谷くんの言う通りにする」と。


 ここは、美舘山町の外れに位置する廃墟ビルの屋上。

 人目を避け、鬱蒼うっそうとした森の中にそびえるそこを訪れたシロヤマは、真顔でセバスチャンと向かい合っていた。

「ここなら誰も来ないし、邪魔も入らない。さぁ、ひと思いにやってくれ」

 シロヤマは覚悟を決めると、両手を広げて全てを受け入れる準備を整えた。

 だが、両手を後ろで組んで薄ら笑いを浮かべるセバスチャンは、そこから動こうとしなかった。

「どうした。早くかかってこいよ」

 冷静に促したが、気品良く佇むセバスチャンはやはり、動かない。

 それから何秒かが経過した頃。セバスチャンが静かに口を開く。

「甘んじて、自ら犠牲になろうとするとは……あなたらしくもない」

「どう言うことだ」

「言葉通りですよ。あなたは確か、赤ずきんのを仕留める“狼”だった筈です。

 にも関わらず、獲物を仕留めるどころか味方と化している。これは完全なる、裏切り行為ですよ」

 思わずぞっとするような、凄みを利かせて睨めつけるセバスチャンの顔に、笑みなど一切浮かんでいなかった。

「裏切り行為……か」

 いささか顔を下に傾けたシロヤマは、口元に笑みを浮かべて「だったらここで、俺を始末するか?」と、凄みを利かせて尋ねた。

「裏切り者には死を……弱肉強食の裏社会ではそうなってもおかしくはないでしょう。ですが、それ相応のペナルティーは負いますが、我々はそこまで厳しくはいたしません。

 ガクトくん、きみに最後のチャンスを与えましょう。今から再び赤ずきんのに逢い、今度こそ、その魂を回収して来て下さい。成績次第では、ペナルティーを免除いたします」

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