第15話 罠

「お気を悪くさせてしまい、申し訳ございません。お詫びの印にこれをどうぞ」

 片手を胸に添え、うやうやしく頭を下げたセバスチャン。

 徐に、上着の内ポケットから小箱を取り出すと、まりんを挟んで細谷に差し出した。

 まばゆい純金のリングにはまる、ルビーの指輪が、パカッと蓋が開いた小箱の中に納まっている。

「この指輪を指にはめた瞬間、私など到底足下にも及ばない力が手に入る。

 大切な彼女を護りたい。今のあなたなら、喉から手が出るほど欲しい代物でしょう。さぁ、お受け取り下さい」

 何かを企んでいるような、不敵な笑みを浮かべる相手からの贈り物。

 明らかに手にしてはいけない不審物。

 そして、細谷の気持ちに付け込む悪魔の囁き。

 決して耳を傾けてはならない。

 細谷に手で口を塞がれたまま、瞬時に理解したまりんは最大級の警戒心を持って、背後にいる細谷に注意を呼びかけようとした。その時だった。

「これは罠だ!」

 そう叫ぶシロヤマの声が、どこからともなく聞こえた。

「セバスチャンの言うことを真に受けるな!」

 必死の形相をしたシロヤマが、セバスチャンの背後から顔を出す。

 どうやら、セバスチャンの背後から叫び声を上げていたらしい。

「彼は俺が引き受ける。きみは赤ずきんちゃんを連れて、ここから逃げるんだ」

 シロヤマは毅然と、細谷を促した。

「に、逃げろったって……」

 こんな至近距離から、どうやって逃げろと……?

 細谷がハグするまりんと、不敵なセバスチャンの距離は大体、大人がひとり入るくらいの狭さ。隙を見せたが最後、何をされるか分からない。

「安心したまえ」

 にんまりしたシロヤマが希望の光を照らす。

「セバスチャンはもう、俺の手の中さ。こうして、体をガッチリ抑え込んでれば何も手出し出来ない。後は俺に任せろ」

 力強い言葉で締め括ったシロヤマの顔に、いつの間にかキザな笑みが浮かんでいた。

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