第11話 奪還 始動

 マジか。いやいやいやいやこれは流石にヤバいでしょ。

 思わぬ光景を目の当たりにし、驚愕したシロヤマは内心、慌てふためいた。

 どうするよ……相手がセバスチャンだと、勝てる気がしねェ……けど、このままじゃ……

 唇を噛んだシロヤマは、冷静になりつつ頭の片隅で思った。とりあえず今、言えることは……

「赤ずきんちゃんと死神さま第十一話でついに、俺の名前が世に出たぞォォォ!」

「ああ、そうだな――って、それを今言うのかよ!」

 いきなり俺と向き合い、ただならぬ雰囲気でなにを言うかと思ったら……

 いヨッシャァァァ!!と大きくガッツポーズをしながら叫んだシロヤマに対し、思わずノリつっこみをした細谷は拍子抜けした。

「ここで言わなきゃ、いつ言うの?今、でしょ。俺はずっと、このタイミングを待ち続けたんだぞ」

 真顔で腕組みしながら返事をしたシロヤマは「まァ、冗談はさておき……」

(冗談かよ!とまた、細谷のツッコミが飛ぶ)話を切り出した。

「手短に、用件を伝える。一刻を争う、緊急事態だ。よって……」

 今までと打って変わり、精悍な面持ちで口を開いたシロヤマ。張り詰める空気が辺りを満たし、対面する細谷の顔に緊張が走る。

 じゅうぶんに溜めた後、口を真一文字に結んでいたシロヤマが、出し抜けに言葉を付け加えた。

美舘山町みたてやまちょうで、僕と握手!」

 かつて「後楽園遊園地で、僕と握手!」と、当時人気を博していた戦隊ヒーローが、最後に視聴者に向けて手を差し伸べるテレビCMが流行っていた。細谷がまだ幼稚園児だった頃、両親が懐かしむようにそう教えてくれた。

 おそらく、細谷の両親と同世代なのだろう。見た目は二十代なのに。細谷に握手を求めるシロヤマはまさに、その戦隊ヒーローと被っていた。

「……なんで、お前と握手しなきゃなんないんだよ」

「きみの力が必要だからだよ。セバスチャンは俺よりも手強い。下手すりゃ、致命傷を負いかねない。が、二人で戦えば負担は軽減する」

 手を差し伸べながらフッと、キザな笑みを浮かべたシロヤマはそこで区切ると

「赤ずきんちゃんを奪還するためにも、協力してくれ」

 細谷に協力を要請した。

「一時休戦……で、いいな」

「異存はない」

 気持ちを汲み取り、真顔で応じた細谷。

 かたや、キザな笑みを浮かべたまま、しっかりと返答するシロヤマ。

 セバスチャンの手に堕ちた、赤園まりん奪還。

 双方の意見、意思が一致した今、拒む理由はもう、どこにもない。

「今回だけだからな」

 仏頂面でそう言うと細谷は「ああ」と返事をし、手を差し伸べるシロヤマと、がっちり握手した。

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