第10話 セバスチャンの目論み

 意味ありげに言葉を区切ったセバスチャン。徐にまりんに近づき、ぐっと体を引き寄せた。

「赤園まりん。あなたには、ありとあらゆる世界を揺るがす、強大な力がある。故に私は、その力を最大限引き出せるようにするため、あなたを育てていきたい」

 何を言ってるの?私に、そんな力、あるわけないじゃない。それに……

「……あなた、何者なの?」

 たちまち、不審に感じたまりんは眉をしかめると、警戒するように尋ねた。

 フッと、不敵な笑みを浮かべたセバスチャンは、静かに応じた。

「あなたには、知る必要のないこと。とだけ、お伝えしておきましょう」

 なによ、意地悪。

 まりんは不愉快な目つきでセバスチャンを見上げた。

「それはそうと……いい加減、離してくれません?」

 むっとした表情で、まりんは刺々とげとげしくいた。

「申し訳ございません。が、今は、これがちょうど良いのでございます」

 これがちょうどいいなんて。セバスチャンは一体、なにを考えてるの?

 得体が知れない男性にハグされたままと言うのは、どうもいい気がしない。むしろ、気分が悪くなって来る。

 事実、セバスチャンに体を抱き寄せられた時から、まりんは気分が悪くなっていた。

 頭痛やめまい、全身のだるさに気持ち悪さがプラスされ、風邪で高熱を出した状態に近い。

 一刻も早く、彼から離れなければ、命に係わる。

 そう思った矢先、高熱が頂点に達したのか、急速に体が楽になった。

存外ぞんがいもろい力だったようですね」

 意識が朦朧もうろうとするなか、冷めた口調で呟く、セバスチャンの声が聞こえた。

「ただ今をもって、細谷健悟の契約を解除。代わって私、セバスチャン・パティンソンとの契約が完了いたしました」

 契約完了……?それも、セバスチャンとの。

 徐々に意識がはっきりとしてきたまりんは、包み込むようにハグするセバスチャンの腕の中ではっとした。

 たった今、セバスチャンは細谷との契約を解除したのだ。

 そして、強引なやり方で、まりんはセバスチャンと契約させられた。

 まりんは、恐怖に襲われた。セバスチャンの正体が掴めていない今、そんな状態で契約を結んでしまったがために、なにをされるか分からないからだ。

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