第8話 俺の名前Ⅱ

 細谷くんの結界が……それくらい、彼は強い相手なの?

 まりんがそう思った時だった。細谷を嘲笑あざわらう相手の顔が、突如としてむっとした顔つきになった。

「前から言おう言おうって、思ってたんだけどさぁ……いい加減、俺のことを『相手』呼ばわりするの、やめてくれない?」

「はぁ?この期に及んで、なに言ってんだおまえ」

 これ以上、亀裂が広がらないよう、念力で結界の強度を上げながら、細谷が呆れつつも面倒臭そうに言った。

「考えてみろよ。赤ずきんちゃんと死神さまが連載開始してもう八話だよ?なのにまだ、俺だけ名前が出てないのおかしくない?」

 今はそれどころじゃないと思うのだが……突飛な発言に、まりんは呆れつつも、なんとなく嫌な予感がした。

「約一分~二分で一話が読める、超お手頃連載小説、赤ずきんちゃんと死神さまの中で、『もうひとりの主人公的存在』と言っても過言じゃないこの俺が、八話になってもまだ『相手』呼ばわり。これはどうみても納得行かないね」

 腕組みした相手はそう、腑に落ちない顔でぼやいた。

「じゃあなにか?死神太郎とか、死神花子みたいに呼んでもらいたいと?」

 チョー面倒臭くせぇ……

 今にもそう言いたげな顔で尋ねた細谷に、むかっ腹を立てた相手は冷静につっこみを入れる。

「ナニその大事な書類の記入例みたいな名前。つか男女ごちゃ混ぜじゃねェか!」

「じゃあアレだ。ある日突然、空からノートが落ちてきて……」

「先に言っとくが、ライトでもねーからな」

 相手は物語のあらすじ冒頭で遮り、先読みして正解を口にした。

 その言動が癪に障った細谷は、チッと舌打ちする。

「おまえ、ぜってーやる気ねェだろ」

 細谷の言動で、やる気のなさ百パーセントなのを感じ取った相手はそう、冷静に即答した。

「ぶっちゃけ、どーでもいいもん。お前の名前なんて」

「それ言っちゃう?!このタイミングで、それ言っちゃう?!」

 ショックを受けた相手はすかさず「そんなこと言わないでさぁ……きみと僕の仲だろぅ?」

 ねぇねぇと言葉を付け加え、細谷にすり寄ると甘え出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る