第3話 ハードボイルドチックな話

 好きでもない男にいきなりキスされた。それもファーストキスだ。まりんはショックのあまり、泣き出した。

「ご、ごめんよ。そんなにショックを受けるとは……思わなかったんだ。だから、機嫌を直して……ね」

 取り繕った笑みを浮かべてまりんを宥める相手。と、その時。相手の背後に歩み寄った男子高校生が、どすの利いた声で相手を威嚇した。

「あんた、なに女泣かせてんの?」クラスメイトの細谷だった。

「強引の壁ドンにあごくい……そしてそれに伴う泣かせる行為。あんたが侵した罪は、これで三つだ。その罪、その身をもって、しっかり償ってもらうぜ」

「分かったよ。だから……俺の背中につきつけてる、物騒なものを下ろしてくれないかな」

 両手を上げ、平静を装いながらも相手は、やんわり応じるとかけ合った。相手を信用したのか、一歩下がった細谷がすっと、相手から離れた。

「まったく……平和なこの国に銃なんて物騒なもの、必要ないだろ?」

 おかげで命拾いしたわ。

 と、ぶつくさ言った相手に、薄ら笑いを浮かべた細谷が一言放つ。

「おまえ、死神のくせに、めっちゃびびりなのな」

 冷やかに言い放った細谷の言葉が、相手をきょとんとさせる。表情、声色ひとつ変えず、細谷はとどめを刺す。

「俺はただ、銃に見立てた指先を、おまえの背中につきつけてただけだぜ?」


 んナッ……んだ……とォォォ?!


 右手親指と、ひとさし指で銃の形を作りながらとどめを刺した細谷に、驚愕した相手は物凄い衝撃を受けた。

「ひ、卑怯だぞぉ!ただの指鉄砲に、新聞紙を被せるなんてぇぇぇ!!」

 どこぞのハードボイルド漫画に出てくる、凄腕スナイパーのような真似しやがって!相手のつっこみ……いや、怒号が飛ぶ。

「卑怯もなにも、こんな子供だまし、普通の人間だって騙されないぜ」

 フンッとお言葉を返した細谷。最後に軽蔑の眼差まなざしで「よっぽどの妄想好きか、びびり以外は」と言葉を付け加えた。

 これが最後のとどめになったらしい。口をあんぐりと開けて絶句した相手は、そのまま石化した。

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