第2話 キスして契約

「脅迫ですか?」

 外壁に固定され、身動きが取れないまりんはそう、冷やかに尋ねる。

「それに近いかな」

 不敵な笑みを浮かべた相手は、キザな口調で応じる。

「ここできみを逃がすと、手遅れになりかねないからね」

 なんてやつだ。

 相手を睨みつけつつ、まりんは内心、冷やかに呟いた。目的を達成させるためなら、どんなに卑劣になろうと手段を選ばない。そんな嫌な雰囲気が、目と鼻の先にいる相手から漂っていた。

「あなた最低ね。か弱い女子高校生に、こんな形で迫るなんて」

「そんな憎まれ口をたたいていいのかな?誰もいないこの場所で、か弱い女子高生の口を塞ぐのは造作ないんだぜ?」

 壁ドンしたまま、空いているもう片方の手でぐいっと、まりんの顔を上げた相手は、どすの利いた声で再び脅しにかかった。

 目と目が合い、顔と顔の距離がさらに縮まったこの状況。そしてこの角度。このままいけば唇と唇が触れて大変なことにっ……!

「わ……悪かったわね」

 冷酷な笑みを浮かべている相手とキスと言う最悪の事態を回避すべく、不意に視線を逸らしたまりんは、頬を赤く染めるとぶっきらぼうに謝った。

 この時、まりんは気付かなかった。

 ヤァッベ!ツンデレ女子チョーかわえぇぇぇ!!

 と中学生男子よろしく、内心叫んだ相手の顔が若干にやけていることに。

「なによ」

「いや、なにも」

 まだ少し、頬を赤らめつつもちらっと視線を送り、刺々とげとげしく言ったまりんに相手は、ポーカーフェースで返事をした。

「それじゃ、今からとっておきのサプライズを……」

 そう言って、顔を近づけた相手はまりんの唇にキスをした。

「素直に謝ったご褒美だよ。同時に、俺との契約をさせてもらった。これできみに呪いがかかり、あらゆる者たちの攻撃から護られる――って、なんで泣いてるのォ?! 」

 キザな薄ら笑いを浮かべて説明する最中、きょとんとした顔でぽろぽろと大粒の涙を流し始めたまりんに気付き、ぎょっとした相手はおろおろした。

 なんで泣いてるのか、まりん自身も分からない。ただ、得体の知れない初対面の相手にファーストキスを奪われ、物凄いショックを受けたのは確かだった。

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