赤ずきんちゃんと死神さま

碧居満月

第1話 乙女なら誰もが胸キュンする例のアレ

 突然鳴り響いた携帯電話。頭からすっぽりと頭巾フードを被った赤園あかぞのまりんは、着ている赤いロングコートのポケットからスマホを取り出すと、着信相手を確認した。美南川みながわ県立美舘山みたてやま高校のクラスメイト、細谷健悟ほそやけんごからの着信だった。

「逃げろ。死神しにがみがおまえを狙ってる」

 何事かと電話口に出たまりんに、細谷は開口一番そう告げた。

「死神って……一体どういうこと?」 

 あまりにもシリアスな口調で危険を告げた細谷に、まりんは緊張を覚えながらも冷静に問いかける。

 しかし、どこからともなく現れた相手が、後ろからひょいとスマホを取り上げたがために、細谷の返答を得ることが出来なくなってしまった。

「わざわざ警告してくれてありがとう。けれどきみの大切なお友達はもう、僕の手の中さ。残念だったね明智くん」

 最後の明智くんは意味不明だが、気取った口調で静かに応対した相手はプッと電話を切った。

「さてと……」

 着用している、ダークスーツの内ポケットにまりんのスマホをしまった相手は、ぎょっとしているまりんと向き合いながら、徐に話を切り出した。

「突然だが、今からきみに呪いをかけさせてもらう。理由は、あらゆる者たちから、きみの大切なものをまもるためだ」

 私の大切なものを護るために、呪いかけるのかよ。つかなんだよ、あらゆる者たちって。

 本人はいたって真面目だが、相手が真面目だろうがなんだろうが、面と向かって意味不明なことを言われたまりんは、引きつった表情でマジないわぁ……と内心思いつつ、どん引きしたのだった。

「そうですか。じゃ私、とても急いでるんで」

 半ば棒読みで、素っ気なく返事をしたまりん。もうこれ以上は関わり合いたくないと、不意に視線を逸らした時だった。歩きかけたまりんに急接近した相手がドンッと、近くの外壁を叩いた。

「俺から、逃げられるとおもってんの?」

 仏頂面を少し下に傾け、まりんの目を見据えた相手はそう、どすの利いた声で言った。

 顔と顔が触れそうなくらいの至近距離。片手でコンクリート塀を叩き、行く手を遮った相手。背が高くて超イケメンの若いお兄さんに迫られ、外壁に固定されたまりんは、完全に逃げ場を失った。

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