第8話:深奥に潜む者
「こんな大金…受け取れと言うんですか?」
差し出された大金を前に、冷や汗をかきながら鴨田は和寿に訴える。
「受け取れとは物騒な言い方をする。受け取ってくださいと申しているのです。あなた達はそれを受け取ってそのまま真っ直ぐ帰る。それだけでいい。」
竹本は神妙な顔つきで和俊を見つめ、何かを決断したかのように立ち上がり、もと来たドアの方へ向かった。
「所長!…あの、ありがとうございました。ではまた!」
鴨田も追いかけるようにして飛び出す。
バタンッ…
Cコーポレーションの巨大なビルを、2人は早歩きで飛び出してくる。ビルをある程度離れてから、竹本は止まる。鴨田も止まると、竹本に少し迷惑そうな表情を向ける。
「所長!なんであんな話の終わらせ方をしたんですか!ほんの少しだけだとしても時間をとって下さった相手に対してあれは…」
「クソッ…!完全に嵌められた…。」
「所長?」
「俺たちはCコーポレーションを調べられるいい機会だと考えてビルに飛び込んだ。だが…」
「?」
「利用されていたのは…俺たちの方だったんだ!」
「…⁉︎」
「恐らくだが、あのまま大金を受け取っていれば、俺たちはすぐにこの活動を辞めざるを得ない状況まで追い込まれていただろう…。大金を渡された時に気付いたが…。これで確定した。」
「確定…。」
「Cコーポレーションは確実に、
「どうですか?彼等は…。」
「敵のことを知るのは戦において絶対に必要だ。…しかし社長、なぜ無理矢理にでも渡さなかった?奴らにあの、金の入った箱を渡すことがお前の任務であるからにして。」
「任務は必ず成功させますよ…。今回奴らを引かせたのは、一流営業者としての勘です。」
「…まぁいい、次はミスしないようにするのである。奴らは必ず、我々の敵になると分かっているからにして。」
「……了解、ランぺレンス殿。」
「時期ワールドの席程の者にとって、『殿』は不要であるからにして。」
安土は体の底から震えていた。
不意に目の前に現れた圧倒的な強者を前に、成す術もなくただ止まる。
自分は動けないが相手は今すぐにでも動き命を取れるという状況。
「これが…隊長格…。」
後上はニヤリと笑い、やりを素早く、真っ直ぐに突き出す。
シュッ!
ガキンッ
「紀ちゃん!安土を!」
「吉田さん!」
「また邪魔が…。」
後上は罰が悪そうな顔をする。
「俺たちはなるべく穏便に行きたい!ここは一旦下がって、俺たちのことも一旦見過ごしてくれ!あそこに転がってる男に関しては勝手に持っていってくれ!」
「見過ごせだと…?俺は腐っても警察!しかもその警察の中でも、一つの区を任された隊の隊長だぞ?こんなところでこそこそやってるやつら、見過ごすわけにはいかねぇよ!」
一度は剣にあたり止まった槍を、少し引き再度突く。吉田の剣にヒビは入るが、また元に戻る。
「……じゃ、何したら見過ごしてくれんだよ。」
吉田は少しキリッとした表情で後上を見る。
後上はニヤリと吉田に笑いかけると、槍を納める。
「
「…は、はぁ。」
「は、だのなんだの言ってねぇで、早く言えよコラ!」
後上は苛立ちを見せている。
「え、いや、別に同じ警察(?)だし、別に、話してもなんら問題はない…けど…。」
「あ?なんか文句あんのか?」
「いや、そんなことでいいのかよ。」
「?」
「あんた、俺たちが危険かもしれないと感じたんじゃないのか?目的言うだけで許してくれるって…。」
「カァァァァ、お前分かってねぇな。」
「分かんねぇよ!」
「いいか、どんなテロリストでもテロする譲れない理由があるんだ。小さな力であっても大きな力に対抗しようという考えが生まれる、譲れない理由がよ。」
「ま、そりゃぁ、そうだわな…。」
「オレは、その理由に筋が通っていれば、犯罪者の味方をする。必ずな!そいつにとって一番いい方向へ行くように、オレが導く。自分の邪魔になるから犯罪者つーレッテル貼ってすぐに諦めちまうやつは、んなもん警察じゃねぇよ。俺たちは腐っても警察、犯罪者だろうが権力者だろうが市民だろうが、皆平等に等しい権利を持ってるはずだ!それをオレは必ず尊重する!」
安土は呆然としている。
「……これが、上下田の隊長格…か…。」
安土は腰がぬけて倒れ込む。
「ホンットに呆れちまうだろ?安土。吉田も隊長格に匹敵するくらいのバケモンだが、隊長格の考え方は、どの隊長もあんな感じで、つかみどころがないと言おうかなんと言おうか…。」
「そうやって育てられちまったんだ。仕方ねぇ。文句は全部オレら育てた総長に言ってくれ。」
「ま、そこまで言われたなら話すかな。石橋台副長、高橋景臨の進めている計画を……
「はいもしもし…後上?どうした急に。オレにかけるなんて珍しい。で?要件は?……お前、なんでそれを…どこで聞いたんだ……っておい!おい!…………クッソ、切りやがったあいつ。」
「後上かい?」
「なんかウチの部下が吐いたらしい。『
「アハハ、厄介なのに聞かれちゃってるじゃないか。」
「笑うな…!まぁあのバカの話はともかく、台長…それ、本当なのか?」
「あぁ、本当さ。もう面談もこじつけてきた。」
「早いな…。にしてもまさか、捜査四課がやりやがるとはなあ。」
「『TRANP』メンバーの…逮捕なんてね。」
「………やっぱ、動き始めたか。」
上下田編終幕、
次回、EP3
つづく。
CHASER 追佐龍灯 @tsuisaryuuhi
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