第4話 エンディング
「――カミロ、もう出発するのか?」
炊き出しの一日が終わってから次の日、アルドは、旅立つカミロのことをメルロ区の出入り口まで見送りに来ていた。
ここは、初めてアルドとカミロが出会ったメルロ区へと続く坂の上だ。
朝一番にメリナは教会本部に戻り、プライはチルリルについて他大陸へと奉仕活動に出かけて行ったため、今ここにいるのはアルドとカミロだけだ。
カミロは、優しい風になぶられる赤橙色の髪を片手で押さえながらうなずいた。
「はい。メリナ殿に、別の区での炊き出しのご許可もいただけたのです。なので、わずかな物資ではありますが、僕が集めたものを、別の区へ配ってまわりたいと思います。それが、旧教会圏の区に生まれ育って、神官になった僕の使命だと思いますから」
使命感に満ちた瞳で、カミロは力強く笑む。
(そうか……、カミロは自分のなすべきことを見つけたんだな)
初めて出会ったころとは打って変わって堂々とした姿のカミロに、アルドはにこりと笑いかけた。
「そうか。今のカミロは、最初のころと違って、なんだかより神官らしく見えるよ」
「そうですか? アルド殿にそう言っていただけると、なんだか照れますね」
カミロは気恥しそうに後ろ頭をかいてから、表情をあらためた。
「アルド殿、今回は本当にありがとうございました。アルド殿が炊き出しの提案をしてくださったこと、それから他大陸の人びとからお恵みをいただいてきてくださったこと、そのおかげでこうしてメルロ区のみんなに恩返しをすることができました」
深々と頭を下げるカミロに、アルドは首を横に振った。
「いや、オレの力なんて微々たるもんだよ。一番は、カミロが頑張ったからあんたの思いがメルロ区のみんなに届いたんだ。いい形で恩返しができてよかったな」
「はい……!」
カミロは嬉しそうにうなずく。
アルドは、そんなカミロにほほ笑みかけた。
「カミロ、またオレにできそうなことがあったら、いつでも声をかけてくれ。できる限り協力させてもらうよ」
「ありがとうございます! アルド殿とのこの出会いを、神に感謝いたします」
最初に出会ったときの台詞を茶目っ気たっぷりに言うカミロに、アルドとカミロはおたがいの顔を見て、ぷ、と吹きだした。
そうしてアルドはカミロと固い握手を交わして、カミロは手を振ってその場を去っていく。メルロ区のような旧教会圏に、元気を分け与えるために。
(こうやって、人びとの輪は広がっていくんだな)
アルドは、ガダロの人びとの笑顔、ザミの人びとの笑顔、そしてメルロ区の人びとの笑顔を順々に思い浮かべる。
人びとの優しさが繋がっていく――大陸を越えて、時空を超えて。
いつかきっと、世界中の人びとが助け合っていく世界にできたらいい。
それがきっと、失った未来を救うことに繋がっていくと思うから。
「――よし、オレもオレにできることを精いっぱい頑張るぞ!」
アルドは気合いを入れて、次なる旅路へと足を踏み出す。
この一歩が、みんなが幸せに暮らす未来へ繋がると信じて。
おわり
メルロ区慈善事業協力依頼 山崎つかさ@書籍化&コミカライズ @yamazakitsukasa
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