108話 飛べた魔女はただのおねだり魔女
「おねだりしてもいいですか?」
私はふと気になっていたことを思い出して、クリスにおねだり交渉をする事にした。
「……聞くだけは聞くから言ってみろ」
「こういう時、スパダリというものは、お前の望みを全てを叶えてやる的な流れになるんじゃないですか?」
最近クリスとやった乙女ゲームで、権力とかお金を持っている系、所謂スパダリ系キャラは、結構な確率で主人公をデロデロに甘やかし願いを叶えていた。
ちなみにここに居るクリスも王弟なので、権力も金も美貌もあるスパダリ系だ。唯一の欠点は、婚約者が私であるという事ぐらいのスパダリ王弟様だった。異界の転生物小説を読む限り、前世で相当な徳を積んだとしか思えない能力値である。
そんなわけで、婚約者なのだから私を甘やかしてくれてもいいのではないだろうか?
「はっ?! でもよく考えれば婚約者だからと言って、溺愛系になるというわけではなかったですね! 婚約というものはすべからく破棄されるものですものね。破棄のタイミングは卒業式とか舞踏会ですね。よし。破棄しましょう」
「いい加減そのネタやめろ。婚約破棄なんてしないからな。お前はもう少しマシな異界の恋愛小説を読め。そもそも婚約破棄はそんな気軽にするものじゃない。だいたいお前は何から卒業するというんだ。舞踏会だって出たこともなければ出る気もない癖に」
私が異界の小説で得た知識をひけらかすと、クリスが青筋立てた。
「いや。だって。この世界には、通信教育とかないじゃないですか。リモート舞踏会も存在しないし。あーあ。異界みたいにお家でできるなら、私だってやるんですよー」
「だってじゃない。お前、俺が異界の言葉に弱いことを知っていて誤魔化そうとしているな。そもそもリモート舞踏会なんて存在しないことぐらい知っているからな」
「クリスの異界語力が上がってるだと?!」
「当たり前だ。どれだけお前に付き合って、乙女ゲームをしたり、異界の本を読んでいると思っているんだ」
どうしよう。クリスが勤勉すぎる。……絶対、前世で相当な徳を積んだ上に、神様の手違いで死んでしまい、色々能力を追加されて生まれて来たタイプに違いない。私と同じ生き物は思えない能力差を感じる。
「それで、どんなおねだりがしたかったんだ」
「異界のポッキーゲームというものがどういうものか分からないので調べたいんですけど」
「ぽっきーげーむ?」
「チョコが付いたお菓子を使ったゲームだってことまでは調べはついているんです。でもその異界語を調べようとしてもいつも閲覧禁止になってしまって。なので保護者としてクリスが居たら閲覧可能にならないかなと」
十八禁という事は、結構グロイゲームなのだろうか。
一本のポッキーを得るためにデスゲームをしたり、ポッキーを投げ合ったり、坂道を転げ落ちながらポッキーを奪い合ったりするのかもしれない。
しかしポッキーゲームというものは夫婦仲が良くなる系らしいという情報もある。ポッキーを投げ合って鼻に突き刺さったところで仲良くなれるだろうか。……怪我をすればそれを治療する事になるだろうし、そう思えば仲良くなるきっかけにならないとは言えない。デスゲームだったら吊り橋効果だろうか。
「何でそんなものを気にするんだ」
「どうも異界では今日がポッキーの日なんだそうです。以前ポッキーゲームが何たるか分からないままにとある夫婦にポッキーゲームをするといいと言ってポッキーを渡してしまったことがあって……。大丈夫だったのかなと」
色々考えたが、やっぱり知ったかぶりは良くないと思ったのだ。私は決して勤勉な豚ではないが、学べる豚だ。
「まあ、一緒に見るぐらいならいいけど」
「本当ですか? 私的にはポッキーをどちらが早く食べきるかの勝負ではないかと思っているんですよね」
「何でそれが閲覧禁止になると思うんだ?」
「ポッキーという食べ物は細長いので、慌てて食べて喉に刺さったら結構汚い映像になると思うんです」
グロではなくゲロ系になってしまうけれど、モザイクが必要なのは同じだ。
そう思えば閲覧禁止になってもおかしくない。
「……調べたらやってみるか?」
「お腹いっぱいポッキーが食べられるならいいですよ」
その後ポッキーゲームなるものを調べた私は、気軽に約束をしてはいけないという事を学ぶのだった。
そしてポッキーの箱を片手に「おねだりしてもいいか?」と言ってくる、無駄にキラキラした生き物との攻防を繰り広げるのだった。
めでたし、めでたし。
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