106話 飛べた魔女はただの負けた魔女
ワルプルギスの夜。
それはこの世界で、ハロウィンと同規模の魔女と魔法使いの宴をさす。まあそれらしく言う事もできるが、結局は酒飲んで騒いでるだけだ。通常の集会と少し変わっている点は、ハロウィンの時より能力お披露目が盛んだという感じだろうか。火の玉が飛んだり、季節外れの花がまったり、雪が降ったり、色々している。はちゃけまくって楽しそうで何よりだ。
ハロウィンが酒を飲んで情報交換メインだとしたら、こちらは能力で盛り上がって憂さ晴らしメインだろうか。勿論、情報交換もするし、食べ物も沢山あるのは変わらないが。
「で、お前はまた豚っしーなのか」
「いいえ。いつでも同じと思ったら大間違いです。春バージョンで頭に花が咲いています」
「咲くって、そこは髪飾りがついているって言えよ」
「いや、豚っしーには結べるほどの髪ないので」
嘘は良くない。今回の豚っしーは頭に花が咲いてるだ。ええ、花でも咲かなきゃ、こんな場所に来るはずがない。お家でしっかり自宅警備している。
「それで出不精なお前が参加ってどういう風の吹き回しだ。本当に前回みたいに脅されたとかじゃないんだな? 店番中にイリュージョンして中身がいないとかしないんだな?」
「……」
「居留守はやめろ。本気でむくぞ」
「電波が届きにくかっただけですから豚の皮をはぐ発言はやめて下さい」
一瞬、彼の本気が見えて私は冗談でイリュージョンのふりはやめることにする。というか着ぐるみの中に人はいない設定なんだから、色々アウトなんだってばこの会話。
「ただ、ハロウィンに参加したので、ワルプルギスの夜にも参加しないとバランスが悪いと、えーと、誰だっけ? うーん……その、名前を言ってはいけないあの人から、言われて」
「名前を言ってはいけないって、異界の魔法使い達の、悪役になってるぞ」
「そうそう悪役魔女でした。私と同じ同じ悪役だからいいんじゃないですかねーブヒ」
覚えられないものは覚えられないのだ。最近は彼女も豚だからと納得している。私は飼い犬じゃなく飼い豚なので頭が良くない。無駄な努力はするものではないのだ。世の中には適材適所というものがある。
ただ今回は名前を覚えられない代わりに、ちょっとぐらいは忖度しておこうかと思ったのだ。使い魔相手に店を構える程度なら豚でもできる。
「おい。また使い魔の行列できてるぞ」
「何度見ても癒される光景ですよねぇ」
「……そうか? むしろ俺は、腹をすかせた獣がぎらぎらした目でこっちを見てくるから微妙に怖いんだが」
そう言う彼は若干顔を青ざめさせている。
「そうですか? あんなに沢山のもふもふがお行儀よく行列で待ってるんですよ。天国のような光景ですって。ただ、今回は周りの店への影響も考えて、異界の遊園地方式で並んで貰ってますから、対策もばっちりですブヒ」
ロープをはり、折り畳むように列を作っているので、対策はばっちりだ。抜かりはない。
「後は、このプラカードをもって最後尾にいてね。クリス」
「そこで、名前呼びとか、本当にお前ってズルイよな」
「だって、クリス、王子止めたし。とうとう王太子が王様になったから、クリスが嫌なら何て呼ぶ?」
ついこの間、王太子が王になったタイミングで、彼は王位継承権を返した。その瞬間弟大好きブラコン王太子が後ろにぶっ倒れたというのを風の噂で聞いたが……まあ、頑張れ。元々その予定だったのだから。ただ、王太子の子供ができる前に継承権を放棄するとは思っていなかったのだろう。
その後王様となった彼が元王子に縋りついて、まだ出てかないでくれという修羅場があったとかなかったとか。
「元王子がいい? それとも公爵様? あとは、王弟とか?」
「やめろ。ダーリン、旦那様、あなた❤ならクリスじゃなくても許す」
「クリス以外の選択肢がない」
絶対呼ぶわけがない、花畑な回答に、私はため息をつく。
うん。豚っしーに花を咲かせておいて良かった。
これぐらい浮かれおかなければ、名前呼びなどできない。
今日も元気だ、元王子面倒。でも、仕方がないから名前で呼ぼうかと負けを悟る今日この頃だ。
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