105話 飛べた魔女はただの謎ダンサー

 今日もいい日だ、ダンス楽しい。

 異界では『踊ってみた』という動画が人気らしいので、ダイエットがてら悪い魔女も王子をお供に踊ってみたわけだが、想像以上に反応が貰えて結構面白い。

「王子が、芋ジャージ王子って褒められていますよ」

「……それは褒められているのか?」

「褒められていると思いますよ。異界では何かとかっこいい人に○○王子って名前つけますから。まあ、芋ジャージは見栄え的な面で少々肯定的イメージから遠ざかりますが……。というかプレゼントした手前、あれなんですけど、嬉々として芋ジャージを着て踊るからその名前がついたのだと思います」

 異界のダンスを取得し動画をとる際、王子は何を思ったか、私とお揃いのジャージをねだりそれを着た。いや、ジャージをデスる気はない。あれは伸縮自在で、とてつもない画期的な服だ。まさに神の着衣。

 しかしアレをダサいと思わせずに着こなすのは至難の業。そしてその不可能を可能にする、王子、マジイケメンすぎる。本当に、豚の隣に立ってほしくない逸材だ。


「まあジャージの楽さは世界一ですけど。あれを着たら他のは着れないのもわかりますけど」

「ちょっと違うからな。俺が嬉しいのはお揃いだからで——」

「早く言ってくれれば、もっと早く王子の室内着もお取り寄せしたのに。私は悪い魔女ですが、ケチではないつもりなので」

 まったく、もう。

 王子は身内割引きで、無理難題でない限り お取り寄せを渋る気はないのだけれど。本当に水臭い。

「まあでも、ジャージの良さが、王子だけでなく全世界に伝わればいいと思うので、こうやって宣伝してくれるのは全然いいんですけど。王子のイケメンパワーで布教してくれれば、きっとジャージで世界をとれます」

「……俺の想いはいつお前に伝わるんだ」

「さあ。どうも王子との電波状況、悪いみたいなんですよねー。気が向いたころに伝わるんじゃないですか」

「絶対伝わってるだろ、クッソ」

 本当に口の悪い王子様だ。

 顔が良くなければイケメン枠から転落間違いなしである。


「後は、動画のコメントに、やれば出来る悪い魔女とか書かれていますね」

「真実じゃないか」

「……誰が、本気のブレイクダンスをマスターしたいとか言いました? 私はゆるく踊れる奴が良いんですよ」

 アニソンで踊ってみたを最初はやっていたはずなのに、気が付けば王子がこれがカッコイイとかと言ってガチでブレイクダンスを踊りだし、気が付けば鬼コーチでブレイクダンスを指導されていた。これではいつものブートキャンプと変わらない。止めてくれ。破滅のためにこの踊ってみたダイエットをしているわけじゃない。このままでは物理的に足腰が砕ける。

 お願いだから、【癒しの魔女】も嬉々として見学しに来ないで欲しい。彼女がいると、王子の大丈夫の範囲がぐっと広がる。豚は既に限界だ。


「今度は、ベリーダンスとかいいんじゃないか? 異界で流行っているんだろ?」

「私の意見も聞いて下さいよ。踊りませんから」

 いつも私が話を聞かないからって、王子までダンス指定をゴリ押ししないで欲しい。

 なんでだろー、なんでだろーって踊るぐらいが私には服装的にもちょうどいいのだ。というか、芋ジャージでベリーダンスとか誰得だ。いやいや。そもそも豚のベリーダンスほど無価値なものもない。

 止めて。あのお色気衣裳だと、自前のグラム98円な浮き輪で視聴者と私の悲みを呼ぶから。いっそ腹踊りをした方が吹っ切れてていい気がしてくるから。


「踊れる豚は、豚じゃないってコメントもあるな」

「まあ、豚から悪い魔女に進化するために踊っているので、いつまでも豚のままだと問題なんですけどね」

 今日も元気だ、ダダダンダン。とりあえず、ベリーダンスコスチュームのお取り寄せは絶対しない方向性で、ダイエットにいそしもうと思う。

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